個人事業主の方でも、売掛債権を資金化する「ファクタリング」のニーズは高いのですが、ファクタリング会社の多くは「法人のみ」「個人事業主NG」というところが少なくありません。今回は、個人事業主のファクタリング利用の方法・個人事業主対応ファクタリング会社について解説します。
なぜ、個人事業主・自営業者はファクタリングNGのところが多いのか?
ファクタリング会社の中には
個人事業主のファクタリング利用NG
というところが少なくありません。
例:MEDS JAPAN/ファクタリング
Q.個人事業主ですが利用できますか?
A.いいえ。残念ながら個人事業主様とのお取引はお取扱いしておりません。
また、個人のお客様との売掛金もお取扱いできません。
例:三共ファクタリング
Q:個人自営業なのですが、利用出来ますか?
A:大変申し訳ございませんが、個人自営業者様は弊社ファクタリングサービスをご利用していただくことができません。
では、なぜ、これらのファクタリング会社が「個人事業主をNG」にしているのかというと・・・
売掛債権の債権譲渡登記ができないから
に他なりません。
債権譲渡登記とは
を言います。
法務局のウェブサイトの解説
会社などの法人がする金銭債権の譲渡などについては,その内容を債権譲渡登記所に登記することにより,債務者以外 の第三者に自己の権利を主張することができます。これは,金銭債権を譲渡したことを第三者に主張するには,確定日付のある証書によって債務者へ通知するか 債務者の承諾を得なければならないとする民法の原則に対する特例として認められているもので,これにより,債務者が多数に及ぶ場合でも,簡易に第三者対抗 要件を備えることができます。
簡単に言えば
- 家を買ったら、不動産を登記する
- 会社を作ったら、法人を登記する
というのと同じように
- 売掛債権を譲渡したら、金銭の譲渡事実を登記する
ことができる制度のことを言います。
債権譲渡登記で登記する情報には
- 譲渡人(ファクタリングを依頼する人)の住所や商号
- 譲受人(ファクタリング会社)の住所や商号
- 譲渡する債権の債務者(売掛先)の住所や商号
- 譲渡する債権の種類(売掛金、貸金等の区別)
- 譲渡する債権の発生日
- 譲渡する債権の額
があり、これが登記される(誰からでも見れる状態になる)ことで、公的な証拠となるのです。
このことを「第三者対抗要件の具備(債権者以外の第三者に主張することができる)」と言います。
「第三者対抗要件の具備(債権者以外の第三者に主張することができる)」ってなんで重要なの?
例
- ファクタリングを悪用しようとするA社がいたとします。
- A社は、クライアントB社の売掛債権を1,000万円分、保有しています。
- A社は、1,000万円の債権をファクタリング会社C社にファクタリング手数料10%で売却 → 900万円ゲット
さらに - A社は、1,000万円の債権をファクタリング会社D社にファクタリング手数料10%で売却 → 900万円ゲット
- A社は、1,000万円分の債権しか持っていないのに、1800万円を受け取ることになってしまいます。
しかし、クライアントB社1,000万円しか払いませんから・・・
これを防ぐためには
ファクタリング会社は
- 譲渡される売掛債権が「他社に譲渡登記されたものでないか?」譲渡登記の確認
- 譲渡をするときに譲渡登記をする
必要があるのです。
ファクタリング会社C社が譲渡登記をしていれば、ファクタリング会社D社にA社がファクタリングの依頼をしたとしても、ファクタリング会社D社は「この債権はすでに譲渡されたものである。」ということがわかり、騙されることがなくなるのです。
裁判や訴訟になったとしても、「債権譲渡登記」は公的な証拠になるものですので、複数の債権者が存在していたとしても、債権譲渡登記の登記された日「確定日付」の早い方が効力を持つことになります。同日の場合も、時間が早い方が優先です。
この重要な「債権譲渡登記」なのですが・・・
利用できるのは「法人」のみ
となっています。
法人格のある会社でなければ「債権譲渡登記」ができないのです。
個人事業主・自営業者がクライアント(法人)に対して売掛債権を保有していたとしても、「債権譲渡登記」ができないため、ファクタリング会社にとっては「二重譲渡リスク」が発生してしまいます。
結果として、多くのファクタリング会社は「個人事業主・自営業者は利用できない」方針を取っているのです。
個人事業主・自営業者がファクタリングを利用できない「債権譲渡登記」以外の理由
「債権譲渡登記」以外にも「個人事業主」は「法人」と比較して不利な要素があります。
個人事業主の法人と比較して、不利な要素
会計士・税理士を使っていないケースが多く、確定申告書の信頼性が乏しい
ファクタリングでも、決算書を見て経営状況の審査を行います。
法人であれば、多くの法人で「会計士」「税理士」を使って決算を行い、決算書を作成しています。
しかし、個人事業主の場合は、事業主本人が確定申告の延長線上で決算処理をするため
- 個人のプライベート利用と事業利用の棲み分けができていない
- 計算が間違っている
という問題が多く見受けられるのです。
売掛先との取引が継続的ではない
ファクタリング会社は「継続している売掛債権」こそ、信頼性が高いと考えます。取引が継続していれば、次月以降も継続してファクタリングサービスを利用してくれる可能性もある分、有利なのです。
しかし、個人事業主の場合は、取引先からも信頼が不十分なケースが多く、単発の売上になっている可能性が高いのです。
売掛債権の金額が小さすぎる
個人事業主の場合は、売上規模も、法人と比較すると小さくなってしまいます。売掛先も、大きな仕事を任せるには個人事業主は不向きなのです。
買取額が小さくなれば、ファクタリング会社の利益も小さくなってしまうので、敬遠されてしまうのです。
- 会計士・税理士を使っていないケースが多く、確定申告書の信頼性が乏しい
- 売掛先との取引が継続的ではない
- 売掛債権の金額が小さすぎる
という点でも、個人事業主は不利な点が多いので「個人事業主のファクタリング利用不可」としているファクタリング会社が多いのです。
個人事業主・自営業者でも、利用できるファクタリングとは?
多くのファクタリング会社が「個人事業主NG」にしているなかで、「個人事業主」でも利用できるファクタリングサービスも増えてきています。
例:ジャパンファクター
Q.個人事業主でも大丈夫ですか?
A.売掛先が法人であれば買取出来ます。
例:BestFactor
Q.個人事業者でも大丈夫ですか?
A.個人、法人を問わず、売掛金をお持ちであればご利用いただけます。
などです。
その通りです。
だからこそ、運営歴の長い老舗のファクタリング会社は軒並み「個人事業主のファクタリング利用不可」としているのですが・・・
顧客を獲得できない比較的新しいファクタリング会社は
と考えるため、「個人事業主のファクタリング利用可能」とするところが増えてきているのです。
注意
勘違いしてはいけないのは「個人事業主」であろうと、「法人」であろうと、「二重譲渡」はファクタリング契約の契約違反となります。「二重譲渡」をされたファクタリング会社は、売掛先に連絡を取らざるをえないため、売掛先(クライアント)との取引が今後難しくなってしまうリスクがあります。「個人事業主」であっても、「二重譲渡」はしてはいけない行為です。
大手企業が提供する個人事業主専用ファクタリング「支払保証サービス」も増えてきている!
支払保証サービスとは
を言います。
個人事業主専用のファクタリングサービスで、大手企業が参入してきているのですが「ファクタリング」という名称がマイナスイメージになることを危惧して
- 「支払保証サービス」
- 「請求書買取サービス」
と、名称を変えてサービス提供しています。
名称は、変わっても、ファクタリングサービスであることには変わりがありません。
- 「個人事業主専用」なので、個人事業主(自営業者、フリーランス)であっても審査が通りやすい
- 大手企業が提供している分、ファクタリング手数料が安い
という大きなメリットがあります。
個人事業主・自営業者がファクタリングを利用するときにすべきこと
その1.信頼性の高い売掛債権を選ぶ
「個人事業主の買取可」のファクタリング会社でも、「法人」と比較して、「個人事業主・自営業者」の方が審査は厳しくなります。
信頼性の高い売掛債権とは?
- 上場企業の売掛債権
- 大手企業の売掛債権
- 継続して仕事が発生している売掛債権
- 発注書、契約書、納品書、請求書などの資料がすべてそろっている売掛債権
金額の大きい売掛債権
です。
その2.会計士、税理士と契約して決算書を作成する
個人事業主ですので「決算書」という形でなくても構いませんが、それに類するような経営管理資料を作成し、経営状況の見える化をしなければなりません。
事業主個人がプライベートとビジネスの区分けをせずに処理した確定申告書のみでは、なかなかファクタリング会社には信用されないのです。
その3.数多くのファクタリング会社に問い合わせしてみる
前述した通りで
「個人事業主のファクタリング利用」は、ファクタリング会社にとっては、リスクの多いものです。
しかしながら、ファクタリング会社の競争が激化する中で「背に腹は代えられない」というファクタリング会社が増えているのも、事実です。
だとすれば、「個人事業主のファクタリング利用可」のファクタリング会社を、数多くあたって、審査が通るところを見つけるというのも、一つの選択肢になるのです。
2社、3社、ダメでも、4社目で買い取ってくれるファクタリング会社が見つかる可能性は、少なくありません。
その4.個人事業主専用ファクタリングを検討する
- 法人も、個人事業主も、利用できるファクタリングサービス
- 個人事業主しか利用できないファクタリングサービス
を比較すると、圧倒的に「個人事業主しか利用できないファクタリングサービス」の方が審査は通りやすいです。
その5.3者間ファクタリングも検討する
債権譲渡登記が必要なのは「2者間ファクタリング(2社間ファクタリング)」のケースです。
「3者間ファクタリング(3社間ファクタリング)」であれば、そもそも、債権譲渡登記は不要です。
売掛金を支払う売掛先からの同意を得ていれば、二重譲渡リスクがないからです。
その6.長期的な視点では「法人成り」する
「個人事業主」が「法人」よりも、信頼されないのは「ファクタリング」に限った話ではありません。
今後も、ファクタリングやその他の資金調達方法を利用して、事業の拡大を目指すのであれば、早い段階で「法人成り」「法人化」を検討する必要があります。
個人事業主・自営業者が利用できるファクタリング会社
まとめ
個人事業主・自営業者が法人の売掛債権を保有している場合に
- ファクタリングを利用できるファクタリング会社
- ファクタリングを利用できないファクタリング会社
があります。
個人事業主・自営業者がファクタリングを利用できないのは
- 債権譲渡登記ができない = 二重譲渡リスクが大きい
ことが主な理由です。
それ以外にも、「個人事業主」は「法人」と比較して
- 会計士・税理士を使っていないケースが多く、確定申告書の信頼性が乏しい
- 売掛先との取引が継続的ではない
- 売掛債権の金額が小さすぎる
・・・
という問題点があるため、多くのファクタリング会社では「個人事業主:不可」としているのです。比較的運営歴の長いファクタリング会社は「個人事業主:不可」の会社が多くなっています。
しかし、最近は、ファクタリング会社の競争が激化し、徐々に「個人事業主:可」のファクタリング会社が増えてきています。
- その1.信頼性の高い売掛債権を選ぶ
- その2.会計士、税理士と契約して決算書を作成する
- その3.数多くのファクタリング会社に問い合わせしてみる
- その4.3者間ファクタリングも検討する
- その5.長期的な視点では「法人成り」する
というポイントを抑えておけば、個人事業主・自営業者でも、ファクタリングを利用できる可能性は高いのです。
長い目で見れば、個人事業主・自営業者が法人と比較して信頼性が乏しいのは解決しておくべき問題ですので、早い段階で「法人成り」をすることをおすすめします。
「個人事業主対応のファクタリング会社を教えてください。」
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