売掛金について正確に理解していない方も少なくありません。今回は、売掛金の意味をわかりやすく解説します。
売掛金とは?
売掛金とは
英語では「accounts receivable」です。
信用取引(掛取引)とは
を言います。
一般的な日本の企業間取引
- 【納入企業】→【支払企業】:提案・見積書の提示・契約
- 【支払企業】→【納入企業】:発注書を送付する
- 【納入企業】→【支払企業】:商品・サービスを提供する
- 【支払企業】→【納入企業】:納品されたものを検収して、検収書を送付する
- 【納入企業】→【支払企業】:請求書を送付する
- 【支払いまでの期間】支払いサイト:月末締め翌月末支払い、月末締め翌々月末支払い
- 【支払企業】→【納入企業】:支払う
というようなフローで取引が行われるのが一般的です。
企業間取引では
- 前払い
- 現金取引
などは一般的ではなく
多くの企業で採用されているのが、後払いの「信用取引(掛取引)」なのです。
商品やサービスを提供してから、入金されるまでは1ヶ月~2ヶ月のタイムラグが発生します。
このタイムラグの期間に、納入企業が保有している「代金を受け取る権利のこと」を売掛債権・売掛金と呼ぶのです。
売掛債権・売掛金は、代金を受け取ったタイミングで消滅します。
なぜ、「信用取引(掛取引)」が一般的に採用されているのか?
シンプルに言えば
です。
例えば、飲食店が食材を仕入れる場合
現金取引であれば、毎日、卸業者と現金での取引をしなければなりません。
現金を用意するのも手間やコストがかかりますし、
毎日現金のやりとりをするにも無駄な時間が取られます。
というのが「掛取引」が登場した背景です。
「売掛金」と「売掛債権」の違いとは?
売掛債権には
「売掛金」と「売掛手形」の両方が含まれます。
※数字は、2013年度の全企業合計データです。
- 売掛金:手形以外の支払で商品・サービスの代金を受け取る権利(債権)
- 受取手形:手形の支払で商品・サービスの代金を受け取る権利(債権)
となります。
「売掛金」と「買掛金」の違いとは?
- 売掛金:手形以外の支払で商品・サービスの代金を受け取る権利(債権)
- 買掛金:手形以外の支払で商品・サービスの代金を支払う義務(債務)
【納入企業】 → 売掛債権(売掛金)が発生
【支払企業】 → 仕入債務(買掛金)が発生
となり、支払いが完了するとどちらも消滅するのです。
「売掛金」と「未収金(未収入金)」の違いとは?
未収金(未収入金)とは
を言います。
「売掛金」も、「未収金(未収入金)」も、
まだ受け取っていない代金を受け取る権利(債権)のこと
であるため、混同されがちなのですが
- 営業取引によって発生する債権 → 「売掛金」
- 営業外取引によって発生する債権 → 「未収金(未収入金)」
という明確な違いがあります。
「売掛金」が発生するケース
仕入れた商品を販売した。
製造した商品を販売した。
サービスを提供した。
「未収金(未収入金)」が発生するケース
有価証券を売却した。
不動産を売却した。
機械設備を売却した。
メイン事業ではない所有不動産の賃料収入が入った。
※「未収金(未収入金)」を計上する場合には、原則として決算期後1年以内に回収予定のものであることが必要です。
「売掛金」の仕訳・会計処理
例:商品を50万円「掛け取引」で販売した場合
販売時点
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
売掛金 | 500,000円 | 売上 | 500,000円 |
代金回収時点
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 500,000円 | 売掛金 | 500,000円 |
会計を見ても、わかる通りで、代金回収時点で
- 借方の売掛金:500,000円
と
- 貸方の売掛金:500,000円
が相殺されて、売掛金が消滅するのです。
売掛金の時効
売掛金も含め、債権には、民法で時効が決められています。
6ヵ月 | 小切手債権 | 小切手法51条 |
約束手形債権 | 手形法70条 | |
1年 | 飲食・宿泊代金、運送費など | 民法174条 |
2年 | 生産・商品の売買代金など | 民法173条 |
塾の授業料 | 民法 173条 | |
弁護士・公証人の債権 | 民法172条 | |
3年 | 医師・請負人の債権 | 民法170条 |
建築工事に関する代金 | 民法170条 | |
5年 | 商行為に関する債権 | 商法522条 |
10年 | 個人間の債権 | 民法167条 |
商行為に関する債権は5年ですから、企業間取引で
【納入企業】「払ってくれ。」
【支払企業】「もう少し待ってくれ。」
【納入企業】「もう○ヶ月ですよ。払ってくれ。」
【支払企業】「少しの目途があるから、待ってくれ。」
・・・
とやっているうちに5年経過してしまったら、法律上で「納入企業がお金をつけとる権利」も「支払企業が支払いをする義務」も、なくなってしまうのです。
その5年というのは、いつから数えて5年なのでしょうか。
2017年9月30日が支払企業の請求書を送っていたら
消滅時効の起算日は
2017年10月1日になり
2023年9月30日をもって、売掛債権(売掛金)は消滅します。
売掛金の時効を止める方法
売掛金に時効があると
となるので、納入企業側(債権者側)に不利なルールとも、言えます。
しかし、そうならないように「時効を止める方法」が用意されているのです。
時効を止める方法
- 請求(裁判上の請求) → 裁判所に支払督促や民事調停の申し立て
- 差押え、仮差押えまたは仮処分」 → 裁判による差押え
- 承認 → 債務者が一部の金額を支払う、支払の猶予の申し出をする
場合には、時効のカウントがストップします。
これを「時効の中断(停止)」と言います。
金融機関が融資をしたけれども返済が滞っている企業に
というのは、「承認」によって「時効の中断(停止)」をさせようとしているのです。
また、
- 請求(裁判外の請求) → 内容証明郵便による督促
を行えば、一時的ですが、最大で6ヵ月まで時効を中断させることができます。
売掛金のトラブル
売掛金のトラブルとは?
売掛金のトラブルというのは、ただ一つ、支払いがないこと「売掛金の未回収」に尽きます。
商品やサービスを提供しているのですから、売掛金の支払がなければ
- 仕入コスト
- 製造コスト
- 人的コスト
・・・
分、損失が発生してしまいます。
多くの経営者が頭を悩ませてしまうのが「売掛金の未回収」なのです。
「売掛金の未回収」が発生する原因
- 取引先(売掛先)の経営状況が悪化して支払えない
- 取引先(売掛先)が倒産した。
- 取引先(売掛先)が納品した商品やサービスに納得しておらず意図的に支払わない。
- 元々支払う気がない悪質な取引先(売掛先)
- 請求書の作成もれ、送付漏れ
などがあります。
売掛金管理のコツ
売掛金管理台帳の作成
取引先ごとに売掛金を管理する台帳を作成します。
- 取引先名
- 担当者名
- 販売商品・サービス名
- 計上年月日
- 回収予定年月日
- 回収ステータス
- 売掛金残高
などをエクセルで作成し、未回収売掛金がでないように管理します。
与信管理を徹底する
与信管理というのは、企業の信用力を調査し、その企業との取引限度額を設定して、その範囲内でのみ取引をすることです。大企業や資産が多い優良企業であれば、高額な取引をしてももんだいありませんが、中小零細企業の場合、初回取引など信用力が小さい段階では少額の取引に抑えていた方が、売掛金の未回収時のダメージが少なくなるのです。
売掛金の回収のコツ
定期的な電話連絡・訪問をする
取引先(売掛先)も「支払えるものなら支払いたい」のが本音ですが、色々なところから催促を受けてるので、基本的には「うるさいところから払う」という経営者が少なくないのです。黙っていれば、「後回しでも良い取引先」と勝手に思われてしまうので、それは避けなければなりません。怒鳴ったり、過度な取り立てをする必要はありませんので、丁寧な言い回しでも構いませんが、定期的に連絡をし続ける必要があります。
同意の上、納品物を回収する
支払い能力がないと見なした場合には、同意の上、納品した商品を回収するなどして、売掛金の未回収による損失を低減させる方法もあります。
督促状・内容証明を郵送する
書面を送付することで、支払への圧力を強めることができます。相手の企業宛だけでなく、自宅などへも送付すると効果があります。
内容証明郵便とは
郵便物の内容文書について
- いつ送られたのか?
- 誰宛に送られたのか?
- 内容は何か?
を日本郵便が証明する制度です。
前述した通りで、消滅時効を一時的に中断させることができる効果があり、知らない方にとってはびっくりするものですので、売掛金を入金してくれるかもしれません。ただし、法的な拘束力は持ちません。
法的手続きをする
支払督促
裁判所から債務者に対して金銭などの支払を命じる督促状(支払督促)を送ってもらえる制度
民事調停
裁判官及び調停委員会が当事者を仲介し、双方の間に入って和解の成立を図る非公開の手続きのこと
少額訴訟
60万円以下の金銭の請求の場合には、簡易裁判所で1日で審理を終えられる少額訴訟が利用できます。
訴訟による強制執行(差し押さえ)
裁判で訴訟を行って、裁判所が債権者に強制執行の許可を出せば、裁判所の執行官によって強制執行(差し押さえ)ができます。
売掛金回収は、ある程度であきらめた方が良い!?
当然、未回収になってしまった売掛金は損失になってしまうため、回収すべきものです。しかしながら、裁判の訴訟などを起こせば、かなりの時間を裁判に費やす必要があります。労力も、時間も、かかってしまうので、金額にもよりますが、未回収の売掛金はさっさとあきらめて、次の顧客を探す営業や商品開発に時間を割いた方が経営的にメリットがあります。
売掛金回収率100%は目指すべきではない!?
極端な話をすれば
取引先が増えれば増えるほど
売掛金回収率:100%
というのは、非現実的なのです。
どんな大企業であっても、95%ぐらいになってしまうものなのです。
未回収が嫌なのであれば
- 「前払い」を導入する
- 「カード決済」を導入する
など、未回収が発生しないビジネスモデルを確立する必要があります。
売掛金を活用した資金調達方法
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)
「売掛金」を担保にして、融資を受けることが可能です。返済が滞った場合には、売掛金は債権者に担保として取られてしまいます。
売掛債権譲渡(ファクタリング)
売掛金は、商品やサービスの納品後、1ヶ月~2ヵ月ぐらい入金までに時間を擁してしまいます。ファクタリングを利用すれば、ファクタリング手数料が5%~20%程度発生するものの、早ければその日のうちに資金化可能です。
まとめ
売掛金とは
信用取引(掛取引)によって、商品やサービスを提供したが、まだ、代金を受け取っていない状態で、代金を受け取る権利(債権)のことを売上債権(売掛債権)と言います。そのうち手形支払いでないものことを「売掛金」と言います。
「売掛金」と「売掛債権」の違いとは?
売掛債権 = 売掛金 + 売掛手形
「売掛金」と「買掛金」の違いとは?
売掛金:手形以外の支払で商品・サービスの代金を受け取る権利(債権)
買掛金:手形以外の支払で商品・サービスの代金を支払う義務(債務)
「売掛金」と「未収金(未収入金)」の違いとは?
営業取引によって発生する債権 → 「売掛金」
営業外取引によって発生する債権 → 「未収金(未収入金)」
「売掛金」のトラブルは「売掛金未回収」であり、「売掛金未回収」を防ぐために適切な売掛金管理が求められます。
売掛金管理、売掛金回収のコツ
- 売掛金管理台帳の作成
- 与信管理を徹底する
- 定期的な電話連絡・訪問をする
- 同意の上、納品物を回収する
- 督促状・内容証明を郵送する
- 法的手続きをする
という方法があります。
しかし、どんなにがんばっても、取引者数が増えれば増えるほど、売掛金回収率100%は難しくなってきます。
- 売掛金回収の見込みがなければ、途中で打ち切って、無駄なコストや時間を費やさない
- 売掛金回収率100%は難しいものとして、未回収をあらかじめ織り込んだ価格設定にする
ことが重要になります。
「売掛金と買掛金の違いを知りたい。」
・・・