人材派遣業では、賃金の支払いが先に出て、派遣料金の入金が後に来ます。この順番は景気や取引先の都合で決まっているのではありません。賃金・社会保険料・源泉所得税には法令が期日を定めていて、派遣料金の支払期日を定めた条文はない、という違いから来ています。
そのため、この業種で債権を売るかどうかを考えるときは、手数料の比較から入らないほうが早く結論に近づけます。先に決めることは2つです。いつ資金が足りなくなるのかという期日の問題と、何をいくらの債権として売るのかという特定の問題です。どちらも自社の資料と条文で確かめられます。
もうひとつ、人を扱う業種だからこそ先に線を引いておきたいことがあります。派遣会社が売れるのは派遣先に対する派遣料金債権で、派遣労働者が使用者に対して持つ賃金債権ではありません。後者を買い取る取引は、金融庁が貸金業に該当するとしているものです。取引そのものの仕組みはファクタリングとはにまとめています。
売る対象は、派遣先に対する派遣料金債権
金融庁は、一般にファクタリングとは「事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス(事業者の資金調達の一手段)」であり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約だと説明しています(2026年10月6日確認)。派遣会社でこの売掛債権等に当たるのは、派遣先へ請求している派遣料金です。
労働者派遣法第2条第1号は、労働者派遣を「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」と定義しています(2026年10月6日確認)。雇用関係は派遣元との間にあり、指揮命令は派遣先から受けます。この定義の形から、お金の動きが3つに分かれます。派遣元が派遣労働者へ支払う賃金、派遣先が派遣元へ支払う派遣料金、そして債権を売る場合の買取代金です。
売買の対象になるのは、このうち派遣元と派遣先の取引から生まれた債権だけです。賃金債権は派遣労働者が持つ債権で、派遣会社が自社の資金調達のために売れるものではありません。自社が雇っている人の賃金を扱う業種であるために、この2つは説明の中で混ざりやすいという点が、ほかの業種と違うところです。
買取の対象として何が求められるかは売掛債権の買取とは、債権を譲渡する手続きそのものは売掛債権の譲渡とはに整理しています。申込みで求められる資料はファクタリングの必要書類にまとめました。
出ていく期日は、法令が決めている
資金が足りなくなる日を計算するには、動かせない期日を先に並べます。人材派遣業では、ここに条文が集まっています。
労働基準法第24条第2項は「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」としています。同条第1項は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定め、法令や労働協約に別段の定めがある場合などの例外をただし書に置いています(2026年10月6日確認)。支払う日を自社の資金の都合で先へずらすことを前提にした計画は、この条文と両立しません。
賃金から預かるものにも期限があります。所得税法第183条第1項は、給与等の支払をする者は「その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない」としています(2026年10月6日確認)。
社会保険料は、負担と納付義務が条文で分けられています。厚生年金保険法第82条第1項は「被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料の半額を負担する」とし、第2項は「事業主は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う」としています。納付の期限は第83条第1項が「毎月の保険料は、翌月末日までに、納付しなければならない」と定めています。健康保険法第164条第1項も、被保険者に関する毎月の保険料を翌月末日までに納付するとしています(いずれも2026年10月6日確認)。
| 項目 | 法令が定めていること | 根拠(2026年10月6日確認) |
|---|---|---|
| 賃金の支払期日 | 毎月一回以上、一定の期日を定めて支払う | 労働基準法第24条第2項 |
| 賃金の支払方法 | 通貨で、直接労働者に、その全額を支払う(ただし書に例外あり) | 労働基準法第24条第1項 |
| 源泉所得税 | 徴収の日の属する月の翌月10日までに国へ納付する | 所得税法第183条第1項 |
| 厚生年金保険料 | 事業主と被保険者が半額ずつ負担し、納付義務は事業主が負う。毎月の保険料は翌月末日まで | 厚生年金保険法第82条・第83条第1項 |
| 健康保険料 | 被保険者に関する毎月の保険料は翌月末日までに納付する | 健康保険法第164条第1項 |
| 派遣料金の入金 | 期日を定めた条文は見当たりません。労働者派遣契約などの取り決めで決まります | - |
表の左の4項目は、期日が条文に書かれています。いちばん下の派遣料金だけが、取引ごとの取り決めで決まります。
この並びから出てくるのが、立て替える期間です。就業した月の賃金を支払い、翌月10日に源泉所得税を納め、翌月末日までに社会保険料を納めたあとに派遣料金が入る取引では、同じ1人分の費用を2か月近く自社の資金で持つことになります。入金までの期間の数え方は支払サイトの考え方、不足する時期の出し方は資金繰り表の作り方で扱っています。
同じ「入金が遅い」業種でも、遅れる理由と根拠になる制度は違います。公的な審査支払機関を通る取引は医療・介護のファクタリング、工期と出来高で請求が動く取引は建設業のファクタリングで、それぞれ別に整理しました。
請求できる額は、就業の実績で決まる
次に、何をいくらの債権として売るのかを特定します。派遣料金の請求額は、就業した時間や日数の実績から組み立てられます。この実績を示す資料は、法令が作成を義務づけているものの中にあります。
労働者派遣法第26条第1項は「労働者派遣契約の当事者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者派遣契約の締結に際し、次に掲げる事項を定める」として、派遣労働者が従事する業務の内容、派遣就業の場所および組織単位、直接指揮命令する者に関する事項、労働者派遣の期間および派遣就業をする日、派遣就業の開始および終了の時刻ならびに休憩時間などを並べています(2026年10月6日確認)。
労働者派遣法第37条第1項は、派遣元事業主に派遣元管理台帳の作成を義務づけ、派遣労働者ごとに記載する事項として、派遣先の氏名または名称、事業所の所在地その他派遣就業の場所および組織単位、労働者派遣の期間および派遣就業をする日、始業および終業の時刻、従事する業務の種類などを挙げています。第2項は、この台帳を三年間保存しなければならないとしています(2026年10月6日確認)。
| 資料 | 法令が定めている記載事項(抜粋) | 売る債権の特定に使えること(当サイトの整理) |
|---|---|---|
| 労働者派遣契約 | 業務の内容/派遣就業の場所および組織単位/直接指揮命令する者/労働者派遣の期間および派遣就業をする日/開始および終了の時刻ならびに休憩時間 | どの派遣先の、どの期間の就業に対する請求なのかを示せる |
| 派遣元管理台帳 | 派遣先の氏名または名称/派遣就業の場所および組織単位/労働者派遣の期間および派遣就業をする日/始業および終業の時刻/従事する業務の種類 | 請求額の内訳を、派遣先ごと・日ごとにたどれる。三年間の保存義務があるため過去分も残っている |
| 派遣料金の額の明示 | 労働者を派遣労働者として雇い入れようとする場合と、労働者派遣をしようとする場合および料金の額を変更する場合に明示する | 料金の決まり方と変更の時点を社内で確認できる |
記載事項は2026年10月6日に確認した条文の表記で、右の列は条文から自社で言えることを当サイトで整理したものです。条文は請求額の計算方法を定めているわけではありません。実績をたどれる資料がそろっているという意味です。
この3つがそろうと、売る候補を「どの派遣先の、どの月の就業分か」という単位で書き出せます。締めてまとめて請求している場合は、その締め分にどの派遣労働者のどの就業日が含まれているかを明細で示せる状態にしておきます。額面から実際に受け取る額を出す手順は入金額の計算にまとめています。売掛先へ通知する形と通知しない形の違いは売掛先への通知、2社間に対応すると公表している会社は2社間ファクタリングの比較から確かめられます。
公表している割合と、手数料を比べる位置
人材派遣業には、ほかの業種にない材料があります。自社が法令にもとづいて公表している割合です。
労働者派遣法第23条第5項は、派遣元事業主に対し、事業所ごとの派遣労働者の数、労働者派遣の役務の提供を受けた者の数、労働者派遣に関する料金の額の平均額から派遣労働者の賃金の額の平均額を控除した額を当該労働者派遣に関する料金の額の平均額で除して得た割合、教育訓練に関する事項などについて情報の提供を行わなければならないと定めています(2026年10月6日確認)。いわゆるマージン率として公表されている割合は、この算式によるものです。
この割合の中身について、厚生労働省は「労働者派遣制度における、いわゆる『マージン』には、派遣会社の利益にあたる部分のほか、派遣会社が負担する社会保険料や教育訓練費等が含まれます」と説明しています(2026年10月6日確認)。利益だけの割合ではないということです。
ここから、手数料を見るときの位置が決まります。債権を売ると、手数料は請求額(額面)から差し引かれます。差し引かれた分だけ受け取る額が小さくなり、賃金・社会保険料・源泉所得税の支払いに充てられる原資も小さくなります。料金全体に対する率として小さく見える手数料でも、賃金を除いた部分と比べると割合は変わります。自社が公表している割合を手元に置いて、手数料をそこと並べて見ると、1回の取引で何が残るのかを自分で説明できます。
手数料が何に対して発生しどの時点で差し引かれるのかはファクタリング手数料とは、手数料と別に生じうる費用は手数料以外にかかる費用で扱っています。各社が公表している条件を横に並べたい場合は会社の比較から確かめられます。当サイトは順位や点数を付けず、公表されている表記と確認日だけを並べています。掲載している会社の一覧はファクタリング会社一覧にあります。
買戻しの条項と、給与ファクタリングとの線引き
金融庁は、ファクタリングを装った高金利の貸付けを行うヤミ金融業者の存在を挙げ、貸金業に該当するおそれがある例を示しています。譲渡した債権の回収が売主に委託されていて、売主が集金できなかった場合に売主が債権を買い戻すこととされている場合、または売主自身の資金によりファクタリング業者に支払をしなければならないこととされている場合です(2026年10月6日確認)。
人材派遣業でこの条項を受け入れると、重い形で効きます。派遣料金が入らなかった月も、賃金の支払日と保険料の納付期限は条文どおりに来るためです。買戻しや自己資金での支払いを約束していると、入ってこなかった分と支払わなければならない分が同じ月に重なります。償還請求権がない形の考え方はノンリコースとは、派遣先が支払えなくなった場合の負担は売掛先が倒産した場合に整理しています。提示された契約が売買なのか貸付けなのかを見分ける材料はファクタリングと融資の違いにあります。
もうひとつが、冒頭で触れた線引きです。金融庁は、業として、個人(労働者)が使用者に対して有する賃金債権を買い取って金銭を交付し、その個人を通じて債権に係る資金の回収を行うことは貸金業に該当するとしています(2026年10月6日確認)。当サイトは個人向けの取引を案内しません。派遣会社が自社の派遣料金債権を売る話と、働いている人の賃金債権を買い取る話は、取引の当事者も規制も別です。
最後に、許可との関係について線を引いておきます。労働者派遣事業の許可の基準は労働者派遣法第7条第1項が定めており、第4号は「申請者が、当該事業を的確に遂行するに足りる能力を有するものであること」としています(2026年10月6日確認)。この基準の具体的な内容は、厚生労働省が公表している許可・更新等手続マニュアルの「許可基準」に示されています。当サイトはこの資料から数値を転記していないため、求められる資産の額は書きません。許可や更新の判断は行政が行うもので、当サイトが個別の当てはめをすることもできません。債権を売ったときに貸借対照表のどこが動くのかは貸借対照表への影響にまとめています。
申込みの前に、自社の資料でそろえる
見積りを取る前に手元をそろえておくと、提示された条件を自分の数字で評価できます。この業種では、必要な資料のほとんどが法令上の義務で作られているものの中にあります。
| そろえるもの | 自社のどこにあるか | 何を説明できるようになるか(当サイトの整理) |
|---|---|---|
| 売る候補の請求分 | 派遣先ごとの請求の控え | 額面と支払期日、締めの単位 |
| 就業の実績 | 派遣元管理台帳、始業・終業の時刻の記録 | 請求額の内訳を派遣先ごと・日ごとにたどれる |
| 個別の労働者派遣契約 | 派遣先ごとの契約書 | 業務の内容、派遣の期間、派遣就業をする日 |
| 支払いの期日 | 賃金の支払日の定め、源泉所得税と社会保険料の納付期限 | 資金が必要になる日と金額の並び |
| 公表している割合 | 事業所ごとに情報提供している内容 | 手数料を並べて見るときの比べ先 |
| 提示された契約書の条項 | ファクタリング会社から受け取った契約書案 | 買戻しや自己資金での支払いの定めがあるか |
この順でそろえると、入金までの時間と費用のどちらを優先するのかを自分で決められます。入金までの時間の考え方は入金までの日数にまとめています。
この記事は、2026年10月6日に確認した条文と公表資料の内容を整理したものです。審査に通ることや、希望する日に入金されることを当サイトは保証していません。法令や各機関の取扱いは変わるため、申込みの前に e-Gov法令検索・厚生労働省・金融庁の公表資料と、各社の公式ページで最新の表記を確かめてください。労働者派遣の個別の取扱い、契約条項の効力、税務上の判断については、所轄の都道府県労働局や弁護士・税理士などの専門家へご相談ください。当サイトが情報の出どころをどう扱っているかは情報源について、注意していただきたい点は利用前に知っておくことにまとめています。
この記事の出典
手数料・条件・手続きは、下の一次情報で確認できた表記だけを載せています。 確認日以降に変更されている場合があるため、申込みの前に各社の公式ページで確かめてください。
- e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(第2条・第7条・第23条・第26条・第34条の2・第37条) 公的機関 / 確認日 2026年10月6日
- e-Gov法令検索「労働基準法」(第24条) 公的機関 / 確認日 2026年10月6日
- e-Gov法令検索「所得税法」(第183条) 公的機関 / 確認日 2026年10月6日
- e-Gov法令検索「厚生年金保険法」(第82条・第83条) 公的機関 / 確認日 2026年10月6日
- e-Gov法令検索「健康保険法」(第164条) 公的機関 / 確認日 2026年10月6日
- 厚生労働省「派遣会社のマージン率等について」 公的機関 / 確認日 2026年10月6日
- 厚生労働省「労働者派遣事業を適正に実施するために-許可・更新等手続マニュアル-」 公的機関 / 確認日 2026年10月6日
- 金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」 金融庁 / 確認日 2026年10月6日