売掛先が倒産した場合

売掛先が倒産したら、ファクタリングの買取代金は返すことになる?

売掛先が支払えなくなったときの負担がどこへ向かうかは、契約書に買戻し・支払の定めがあるかどうかで決まります。金融庁の注意喚起と民法・破産法の条文をたどり、2社間で資金が止まる位置、相殺で目減りする仕組み、破産手続に入ったあとに動く人、契約前に読む条項までを整理します。

売掛先が倒産したという知らせが入ったとき、真っ先に確かめることになるのは、すでに受け取った買取代金の扱いです。先に結論を書きます。買戻しや支払の定めが契約書に置かれていなければ、売掛先が支払えなくなったことを理由に返還を求める条項は、そもそも存在しません。ファクタリングが債権の売買だからです。

ただし、これは「ファクタリングだから安全」という話ではありません。契約書に買戻しの定めがあれば、負担は利用者へ戻ります。金融庁は、まさにその形の取引について、貸金業に該当するおそれがあるとしています。危ないのは、返すことになるかどうかを、契約書ではなく業者の説明で判断してしまうことです。

この記事では、まず「倒産」が何を指すのかを制度の側から確かめ、次に負担の行き先が契約書のどこで決まるのかを条文と対応させます。そのうえで、2社間で資金の流れが止まる位置、額面どおり回収できるとは限らない理由、売掛先が破産手続に入ったあとに動くのは誰かまで進みます。償還請求権そのものの意味は償還請求権とは、その定めを置かない契約の呼び方はノンリコースで扱っています。

「倒産」は法律用語ではない。制度はどこで線を引いているか

「倒産」という言葉は、条文には出てきません。実際には、裁判所を使う手続きと、使わないまま支払が止まる状態の両方をまとめて、この言葉で呼んでいます。どこからを倒産とみなすかは、制度ごとに線の引き方が違います。

線を明示している制度のひとつが、中小企業基盤整備機構の経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)です。同機構は、共済金の借入れが受けられる取引先の倒産として、次を挙げています。

共済金の借入れが受けられる倒産 借入れが受けられない倒産
法的整理 夜逃げ
取引停止処分 -
でんさいネットの取引停止処分 -
私的整理 -
災害による不渡り -
災害によるでんさいの支払不能 -
特定非常災害による支払不能 -

出典は中小企業基盤整備機構「経営セーフティ共済 制度の概要」(2026年9月5日確認)です。この一覧から読み取ってほしいのは、倒産と呼ばれる状態がひとつではないということです。裁判所の手続きが始まっていなくても支払が止まることはありますし、逆に、支払が遅れているだけでどの事由にも当たらない段階もあります。

自社の契約を読むときにも、同じ確認が要ります。ファクタリングの契約書に「売掛先が倒産したとき」という条件が置かれていたら、その契約書が倒産をどう定義しているのかを必ず見てください。手形の不渡りまで含むのか、支払の遅延だけで発動するのかで、条項が働く場面はまったく変わります。定義を置かずに「倒産等」とだけ書かれている契約書もあります。

債権の売買である以上、回収できない損失は買い取った側にある

金融庁は、ファクタリングを、事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービスであり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約であると説明しています。売買である以上、売った時点で債権は買主のものになります。買ったものが回収できなかったときに売主が補填する義務は、売買という契約の型そのものからは出てきません。

買戻し・償還請求の定めがない契約と、売主に買戻し・支払義務がある契約を左右に並べ、契約書に置かれている定め、売掛先が支払わなかったときに働くもの、利用者に残る負担、金融庁の注意喚起での位置づけの4つの軸で対比した比較マトリクス
図1:負担の行き先は、業者の姿勢ではなく契約書の条項で分かれる金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」(2026年9月5日確認)の記載をもとに整理しました。実際の契約でどちらにあたるかは、締結した契約書の条項によります。

そのうえで金融庁は、譲渡した債権の回収がファクタリング業者から売主に委託されており、売主が集金できなかった場合に売主が債権を買い戻すこと、または売主自身の資金によりファクタリング業者に支払をしなければならないこととされているものについて、貸金業に該当するおそれがあるとしています。

言い換えると、売掛先が支払えなくなったときの負担が売主へ戻る仕組みになっていると、その取引は売買ではなく貸付けと同じ経済的機能を持つ、という見方です。だから「売掛先が倒産しても請求しません」という口頭の説明は、契約書に買戻しの条項が無いことと同じ意味ではありません。説明ではなく条項で確かめてください。ファクタリングと貸付けの線引きそのものはファクタリングは違法なのかで扱っています。

各社が償還請求権について何と書いているかは、3社間ファクタリングの比較の表に「償還請求権」の列として出しています。記載を確認できなかった会社は「-」のままにしてあり、それは条件が無いという意味ではありません。

2社間では、資金が止まるのは「送金」の一歩手前

負担の行き先とは別に、2社間ファクタリングにはもうひとつ確認しておく構造があります。売掛先へ通知しない方式では、売掛金は従来どおり利用者の口座に入り、利用者がその金額をファクタリング会社へ送ります。債権は移っているのに、回収は利用者に委託されたままです。

2社間ファクタリングの契約・入金、支払期日まで、支払期日、支払われなかった場合の4工程を左から並べ、最後の工程から契約書の定めの有無で二つに枝分かれさせて、破産手続での債権届出へ進む場合と利用者が買戻しまたは支払を求められる場合を示した工程図
図2:入金が利用者の口座を通る方式では、止まる位置が「送金」の手前になる金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」およびe-Gov法令検索「破産法」第111条(いずれも2026年9月5日確認)をもとに作成しました。

売掛先が支払わなければ、口座に入らないので送金もできません。ここで効いてくるのは、送金できなかったこと自体をどう扱うかを定めた条項です。送金の遅れを契約違反として扱う条項と、売掛先が支払えなかった場合の扱いを定めた条項が、同じ契約書の別の場所に置かれていることがあります。前者だけを見て「倒産のときの定めは無い」と読んでしまうと、実際の場面で食い違います。

この段階で、通知が出てくることもあります。債権譲渡登記を留保していた場合でも、一定の事由が生じたときは登記事項証明書を交付して通知できる、と定められていることがあるためです。通知がいつ起こりうるかは売掛先への通知が必要になるときで条文からたどっています。回収と送金の流れ自体はファクタリング後の回収にまとめました。

3社間であれば、売掛先が直接ファクタリング会社へ支払うため、この「送金できない」問題は起きません。倒産という場面だけを見るなら、方式によって現れ方が変わるということです。方式の違いは3社間ファクタリングとはと2社間ファクタリングとはにあります。

額面どおり回収できるとは限らない。相殺と抗弁が残っている

売掛先が倒産していなくても、額面より少ない額しか回収できないことがあります。民法が、債務者である売掛先の側に一定の主張を残しているためです。

民法468条1項は、債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができると定めています。さらに469条1項は、債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができると定めています。

額面1,000,000円の売掛金について、売掛先が対抗要件を備えた時より前に取得した300,000円の債権で相殺した場合を仮定し、譲受人が受け取れる700,000円と相殺される300,000円を1本の帯に分けて示した数値図
図3:相殺されると、譲受人が受け取れる額はその分だけ減る(仮定の計算例)条文はe-Gov法令検索「民法」第468条・第469条(2026年9月5日確認)によります。1,000,000円・300,000円という金額は、仕組みを示すために当サイトが置いた仮定で、実勢や特定の会社の条件を示すものではありません。

売掛先が利用者に対して債権を持っている取引は、珍しくありません。互いに発注し合っている場合や、値引き・返品の精算が残っている場合です。その債権を取得したのが対抗要件を備えた時より前であれば、売掛先は相殺を譲受人へ主張できます。倒産の局面では、売掛先の側も債務の整理に入るため、こうした主張が表に出てきやすくなります。

これは審査の段階でも見られている点です。買取可能額が申し込んだ額面より小さくなる理由のひとつがここにあります。債権譲渡という手続きで何が移り、何が移らないのかは債権譲渡とはで扱っています。

売掛先が破産手続に入ったあと、動くのは誰か

売掛先が破産手続に入った場合、その売掛金は破産法上の破産債権として扱われる場面に入ります。破産法2条5項は、破産債権とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって、財団債権に該当しないものをいうと定めています。

そして100条1項は、破産債権は、この法律に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ、行使することができないと定めています。111条1項は、破産手続に参加しようとする破産債権者は、債権届出期間内に、定められた事項を裁判所に届け出なければならないとしています。個別に督促して回収する、という進め方ができなくなるということです。

状況 その売掛金を持っている者 破産手続で届け出る立場になるのは
買戻し・支払の定めがない契約で、譲渡が済んでいる ファクタリング会社 ファクタリング会社
買戻しの条項が働き、利用者が買い戻したあと 利用者 利用者
そもそも譲渡していない、手元に残っている売掛金 利用者 利用者

根拠はe-Gov法令検索「破産法」第2条第5項・第100条・第111条(2026年9月5日確認)です。届出をしたとして、配当があるか、いくらになるかは手続きの結果によります。当サイトでは個別の手続きの見通しを判断しません。

この表で確かめておきたいのは、届け出る立場になるのは債権を持っている側だ、という一点です。買戻しの条項が働いて利用者が債権を買い戻せば、破産手続に向き合うのは利用者になります。手数料を払い、そのうえで回収の手間まで戻ってくる形です。負担が金額だけで終わらないのは、ここが理由です。ファクタリングが負債として扱われるかどうかとは別の論点なので、ファクタリングは負債になるのかとあわせて読んでください。

倒産してから探しても間に合わない。契約前に見る3点と備え

倒産の知らせが届いてから契約書を開いても、書かれていることは変わりません。申込みの前に、次の3か所を文言で確認してください。会社に口頭で尋ねるより確実です。

  1. 買戻し・償還請求の条項があるか。あるなら、どの事由が生じたときに働くのか。「売掛先の信用不安」のように広い書き方になっていないか
  2. 回収を委託される範囲と、送金できなかった場合の扱い。送金の遅れと、売掛先が支払えなかった場合とが、条文上で区別されているか
  3. 契約書が「倒産」をどう定義しているか。法的整理だけなのか、取引停止処分や支払の遅延まで含むのか

そのうえで、備えの手段も先に知っておく価値があります。売掛先の信用そのものに備える型として、保証型ファクタリングがあります。買取型が債権を売るのに対し、保証型は債権を持ったまま保証を付けておく契約です。中身は保証型ファクタリングにまとめました。

制度としては、中小企業基盤整備機構の経営セーフティ共済があります。同機構は、取引先の事業者が倒産し、売掛金などの回収が困難になったときは、その事業者との取引の確認が済み次第、借り入れることができるとし、共済金貸付額の上限は「回収困難となった売掛金債権等の額」か「納付された掛金総額の10倍(最高8,000万円)」の、いずれか少ないほうの金額となりますと説明しています。

中小企業基盤整備機構「経営セーフティ共済 制度の概要」のページ冒頭。取引先事業者が倒産したときに共済金の借入れができる制度として案内されている
倒産の事由と貸付限度額が書かれている一次情報中小企業基盤整備機構「経営セーフティ共済 制度の概要」の冒頭。上の表に載せた倒産の事由と、共済金貸付額の上限は、このページで確認しています(2026年9月5日取得)。ページの内容と権利は独立行政法人中小企業基盤整備機構に帰属します。

加入できるか、どの債権が対象になるかは、制度側の条件で決まります。ファクタリングで売却した債権の扱いを含め、適用の可否は中小企業基盤整備機構の案内で確認してください。当サイトでは個別の適用可否を判断しません。税務や法律にかかわる個別の判断も同じで、契約書の条項の意味に迷うときは、契約の前に弁護士へ確認してください。

返すことになるかどうかは、契約書のどこに書いてあるか

整理します。ファクタリングは債権の売買なので、売掛先が支払えなくなったときの損失は、原則として債権を買い取った側にとどまります。それが利用者へ戻るのは、契約書に買戻しまたは支払の定めが置かれているときだけです。金融庁は、その形の取引について貸金業に該当するおそれがあるとしています。

そのうえで、2社間では回収と送金が利用者に委託されているため、倒産の場面では「送金できない」という別の問題が先に現れます。額面どおり回収できるとも限らず、民法468条・469条により、売掛先の側の主張が残っています。売掛先が破産手続に入れば、債権を持っている側が債権届出期間内に届け出る立場になります。

確認の順番は、方式を決める、買戻し・償還請求の条項を読む、その条項が働く事由と「倒産」の定義を読む、の3つです。契約条件の読み方をまとめて確認するならファクタリングの契約条件へ、各社が公表している条件を横に並べて見るならファクタリング会社の比較へ、ほかの利用条件をケース別に確かめるなら利用条件・ケース別へ進んでください。

この記事の出典

手数料・条件・手続きは、下の一次情報で確認できた表記だけを載せています。 確認日以降に変更されている場合があるため、申込みの前に各社の公式ページで確かめてください。