消費税

ファクタリングでインボイスはどうなる?適格請求書を出すのは誰か

適格請求書を交付する相手は「取引の相手方」です。売掛債権をファクタリング会社へ譲渡しても、提供したのは自社のままなので交付先は売掛先から動きません。1件のファクタリングを3つの取引に切り分け、国税庁のどの記載が対応するかを整理します。

売掛債権をファクタリング会社へ譲渡しても、売掛先へ交付する適格請求書の交付先は変わりません。国税庁が示している交付義務の相手は「取引の相手方」であり、代金を受け取る権利を今だれが持っているかではないからです。商品やサービスを提供したのは自社なので、適格請求書を渡す先は売掛先のままです。

分かりにくくなるのは、1件のファクタリングの中に相手の違う取引が3つ入っているためです。自社から売掛先への商品・サービスの提供、自社からファクタリング会社への売掛債権の譲渡、そしてファクタリング会社が差し引く手数料。消費税のうえでは、この3つがそれぞれ別の扱いになります。どれについて考えているのかを決めないまま「ファクタリングのインボイス」とまとめてしまうと、答えが出ません。

この記事では、国税庁のタックスアンサーと特設サイトに書かれている範囲だけを使って、3つの取引を切り分けます。そのうえで、交付と保存の義務が誰にあるのか、2社間と3社間で何が変わるのか、そして当サイトで確認できなかったことを分けて書きます。自社の契約でどの処理を採るかという税務の個別判断は、当サイトでは行いません。

国税庁が示しているのは「売手が買手に渡すもの」という形

国税庁のタックスアンサー「No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)」は、適格請求書を「売手が買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段であり、一定の事項が記載された請求書や納品書その他これらに類するもの」と説明しています。交付できるのは、税務署長の登録を受けた適格請求書発行事業者だけです。

義務の内容も同じページにあります。適格請求書発行事業者には、原則として、取引の相手方(課税事業者に限る)の求めに応じて適格請求書等を交付する義務と、交付した適格請求書等の写しを保存する義務が課されます。買手の側では、一定の事項を記載した帳簿および請求書等の保存が仕入税額控除の要件になります。

ここで押さえたいのは、義務の相手が「取引の相手方」と書かれている点です。代金を誰から受け取るか、受け取る権利を誰が持っているかではありません。だから、債権の持ち主が途中で変わっても、交付と保存の相手は動きません。記載事項は「No.6625 適格請求書等の記載事項」にあり、根拠法令として消費税法第30条と第57条の4が挙げられています。どちらのページにも「令和8年4月1日現在法令等」の表示があります。

国税庁「インボイス制度について」のページ。インボイスの記載事項として、相手方の氏名または名称、売手の氏名または名称及び登録番号、取引年月日、取引内容、適用税率ごとの対価の額、消費税額等の6項目が並んでいる
記載事項が公表されている一次情報(引用)国税庁「インボイス制度について」の該当箇所を引用しています(2026年9月6日取得。内容は2026年10月28日に再確認)。記載する項目が、売手が行った取引の年月日・内容・対価の額であることが読み取れます。ページの内容と表示の権利は国税庁に帰属します。

記載事項に並んでいるのは、売手の氏名または名称と登録番号、交付を受ける相手方の氏名または名称、取引年月日、取引内容、適用税率ごとに区分した対価の額、消費税額等です。書く内容は、売手が行った取引そのものです。債権を誰に売ったかを書く欄はありません。

ファクタリング1件は、相手の違う3つの取引に分かれる

消費税の話を進めるには、まず相手ごとに取引を分けます。金融庁は、ファクタリングを「事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス」であり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約だと説明しています。売買の対象は債権であって、商品やサービスではありません。

1件のファクタリングに含まれる3つの取引を、自社から売掛先への商品・サービスの提供、自社からファクタリング会社への売掛債権の譲渡、ファクタリング会社から自社へ示される手数料などの名目に分けて並べ、適格請求書が関わるのは1つ目だけであることを示した関係図
図1:相手ごとに分けると、インボイスが関わるのは1つだけ区分は国税庁タックスアンサー No.6201・No.6209・No.6498(2026年10月28日確認)、ファクタリングが債権の売買契約であることは金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」(2026年10月28日確認)によります。

1つ目は、自社が売掛先へ商品やサービスを提供した取引です。国税庁「No.6209 非課税と不課税の違い」は、消費税の課税の対象を「国内において事業者が事業として対価を得て行う取引」としています。通常の販売や受託はこれに当たります。適格請求書が関わるのは、この取引についてです。

2つ目は、自社がファクタリング会社へ売掛債権を譲渡した取引です。国税庁「No.6201 非課税となる取引」は、非課税となる取引の例として有価証券等の譲渡を挙げ、その中に「金銭債権などの譲渡」を含めています。売掛債権は金銭債権なので、この譲渡は非課税取引として挙げられている側に入ります。

3つ目は、ファクタリング会社が差し引く手数料などの項目です。見積書には手数料のほかに、事務手数料、振込手数料、債権譲渡登記を行う場合の費用といった名目が並ぶことがあります。どの項目が課税仕入れに当たるのかは契約の内容で変わるため、当サイトでは当てはめを行いません。差し引かれる項目として各社が公表している範囲はファクタリング会社の比較に、費用の種類は手数料以外にかかる費用にまとめています。

取引 当事者 消費税での位置づけ 適格請求書との関わり 根拠として確認した記載
① 商品・サービスの提供 自社 → 売掛先 国内において事業者が事業として対価を得て行う取引として、課税の対象 交付と写しの保存が関わるのはこの取引について 国税庁 No.6209 / No.6498
② 売掛債権の譲渡 自社 → ファクタリング会社 「金銭債権などの譲渡」が非課税となる取引として挙げられている 税率と消費税額等が生じないため、ここに書く適格請求書はない 国税庁 No.6201 / 金融庁の注意喚起
③ 差し引かれる項目 ファクタリング会社 → 自社 - (名目ごとに契約内容で変わるため、当サイトでは当てはめません) 課税仕入れに当たる場合の保存要件は公表されている 国税庁 No.6497

債権を売っても、売掛先に対する売手は自社のまま

適格請求書の交付と写しの保存が生じるのは、①の取引についてです。そして①は、債権を譲渡する前に終わっています。売るものは、①で生じた代金を受け取る権利です。商品やサービスの提供をやり直すわけではありません。

商品・サービスの提供、適格請求書の交付と写しの保存、売掛債権の譲渡、売掛先の仕入税額控除という4つの段階を順に並べ、売掛債権を譲渡しても交付と保存を行うのは自社のままであることを示した工程図
図2:交付と保存は、債権を売る前の段階で生じている交付義務と写しの保存義務は国税庁 No.6498、仕入税額控除の保存要件は No.6497、課税の対象の要件は No.6209、金銭債権などの譲渡の扱いは No.6201 によります(いずれも2026年10月28日確認)。

売掛先の側から見ると、仕入税額控除の要件として保存するのは、①について自社から受け取った書類です。国税庁「No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項」は、仕入税額控除を受けるには法定事項が記載された帳簿および請求書等の保存が要件とされると示し、帳簿の記載事項として課税仕入れの相手方の氏名または名称、取引年月日、資産または役務の内容、支払対価の額を挙げています。

帳簿に書くのは「課税仕入れの相手方」です。売掛先にとっての課税仕入れの相手方は、商品やサービスを提供した自社です。債権を買い取った会社ではありません。つまり、債権の譲渡は、売掛先が行う控除の手続にも影響しません。

請求書をファクタリング会社へ提出することと、適格請求書を売掛先へ交付することは、別の行為です。前者は買取の判断材料として求められるもので、後者は制度上の義務にもとづくものです。提出を求められる書類の範囲はファクタリングに請求書は必要かで、請求書だけで手続きできるのかという論点は請求書のみでファクタリングは使えるかで扱っています。

2社間と3社間で変わるのは、債権譲渡の通知のほう

方式の違いで変わるのは、売掛先に債権の移転を示す手続が入るかどうかです。3社間では売掛先への通知または承諾の手続が必要になり、2社間では売掛先が関与しない形で手続きが進みます。この違いは債権の移転を誰に主張できるかという話なので、①で生じた消費税の取扱いを変えるものではありません。

項目 2社間 3社間
売掛先への債権譲渡の通知・承諾 手続に入らない形で進む 通知または承諾の手続が入る
適格請求書を交付する相手 売掛先(①の取引の相手方) 売掛先(①の取引の相手方)
交付した写しを保存する者 自社 自社
売掛先が控除のために保存する書類 自社から受け取った適格請求書 自社から受け取った適格請求書
売掛債権の譲渡の消費税の区分 金銭債権などの譲渡として非課税取引に挙げられている 同じ

通知や承諾の手続そのものは3社間ファクタリングの通知に、通知が入らない方式の仕組みは2社間ファクタリングとはにまとめています。契約書に債権譲渡を制限する条項がある場合の扱いは譲渡制限特約とファクタリングで条文から整理しています。

非課税取引には、税率も消費税額等も生じない

②の譲渡が非課税取引として挙げられている側にあるということは、そこに適用税率も消費税額等も生じないということです。適格請求書に書く項目のうち、適用税率と税率ごとに区分した消費税額等は、課税の対象になる取引について書くものです。生じないものを記載した書類は作れません。

課税取引・非課税取引・不課税取引の3区分について、消費税がかかるか、税率と消費税額等が生じるか、課税売上割合の分子と分母に算入するかを並べた比較マトリクス
図3:3つの区分で何が変わるか区分と課税売上割合での扱いは国税庁 No.6209(非課税と不課税の違い)、No.6201(非課税となる取引)、No.6405(課税売上割合の計算方法)によります。いずれも「令和8年4月1日現在法令等」の表示があるページで、2026年10月28日に確認しました。

非課税と不課税は、どちらも消費税がかからない点では同じですが、課税売上割合の計算での扱いが分かれます。国税庁「No.6209 非課税と不課税の違い」は、非課税取引を分母のみに算入し、不課税取引は分母にも分子にも算入しないとしています。

ただし、売掛債権の譲渡にはさらに例外があります。「No.6405 課税売上割合の計算方法」は、総売上高に含めないものとして支払手段の譲渡や特定の金銭債権の譲渡を挙げ、分母に譲渡対価の5パーセントを算入する金銭債権から「資産の譲渡等の対価として取得したもの」を除いています。自社の売上から生じた売掛金は、まさに資産の譲渡等の対価として取得した債権です。だから、それを譲渡しても課税売上割合は動きません。この計算の詳しい扱いはファクタリングで課税売上割合は下がるのかで条文から追っています。

手数料の部分に消費税がかかるのかという論点は、ファクタリングの手数料に消費税はかかるかで国税庁の説明を確認しています。帳簿へどう記録するかはファクタリングの仕訳で扱っています。

当サイトで確認できなかったこと

国税庁がファクタリングを名指しして、適格請求書の交付や保存の扱いを示した資料は確認できませんでした。この記事に書いたのは、制度の側の記載(誰が、誰の求めに応じて、何を交付し保存するか)と、取引の区分の側の記載(金銭債権などの譲渡が非課税となる取引として挙げられていること)を突き合わせた結果です。公表資料にファクタリングという語で書かれているわけではありません。

もうひとつ確認できなかったのは、③の名目ごとの扱いです。手数料、事務手数料、振込手数料といった項目のどれが課税仕入れに当たるのかは、契約書で何に対する対価とされているかによります。見積書に同じ語が並んでいても、契約の中身が同じとは限りません。ここは個別の税務判断になるため、当サイトでは結論を書きません。

契約書と見積書を持って、税理士または所轄の税務署へ確認してください。ファクタリング会社の説明だけで処理を決めないことをおすすめします。差し引かれる項目の名目は会社ごとに違い、同じ名目でも内訳が違うことがあります。

申込みの前に、自分で確認できること

制度の側の要件は公表されているので、契約の前に自分で点検できます。次の順で確認してください。

  1. 売掛先へ交付した適格請求書の写しを保存しているかを確認する。交付した写しの保存は、債権を譲渡したかどうかとは関係なく続く義務です
  2. ファクタリング会社へ提出する請求書が、売掛先へ交付した適格請求書と同じ取引のものかを確認する。金額や取引年月日が合っていなければ、買取の審査でも照合されます
  3. 見積書の差引項目を名目ごとに書き出し、それぞれが何に対する対価とされているかを契約書で確かめる。そのうえで税理士へ渡す
  4. 取引の相手方が適格請求書発行事業者かどうかを、国税庁の公表サイトで確認する。公表されるのは氏名または名称、登録番号、登録年月日や取消・失効の年月日、法人の本店または主たる事務所の所在地などです
  5. 個人事業者が相手の場合は、氏名のほかに主たる屋号や主たる事務所の所在地が公表されていないことがある点を踏まえる。これらは申出によって公表できる項目とされています

4と5は、売掛先の登録状況を確かめるときにも、ファクタリング会社の登録状況を確かめるときにも使えます。売掛先が個人事業主である場合に審査で見られる点は売掛先が個人事業主のファクタリングで扱っています。

整理すると、動かないものと動くもの

動かないのは、適格請求書を交付する相手と、写しを保存する者です。どちらも①の取引で決まり、債権を譲渡しても変わりません。売掛先が控除のために保存する書類も変わりません。

動くのは、債権の持ち主と、それに伴う入金の相手です。そして②は非課税取引として挙げられている側にあるため、その譲渡について適格請求書が作られることはありません。課税売上割合も、自社の売上から生じた売掛金であれば動きません。

残るのは③だけです。ここは公表資料で答えが出ないので、契約書と見積書を見て個別に判断する領域になります。消費税以外の会計・税金の論点は会計・税金のカテゴリにまとめています。条件から会社を絞り込む比較はファクタリング会社の比較に、出典と確認日つきで並べています。

この記事の出典

手数料・条件・手続きは、下の一次情報で確認できた表記だけを載せています。 確認日以降に変更されている場合があるため、申込みの前に各社の公式ページで確かめてください。