他社利用中

ファクタリングを他社で利用中でも、別の会社に申し込めるのか

他社のファクタリングを利用している最中に、別の会社へ申し込んでよいのかを条文から整理します。問題になるのは併用そのものではなく同じ債権を重ねて売ることで、優劣がどう決まるか、自社の登記を誰でも確かめられる証明書、契約書で読む欄までをたどります。

ファクタリングを他社で利用中でも、別の会社に申し込めるのか

「1社と取引しているが、必要な金額に届かない」「別の会社のほうが条件が良さそうに見える」。そうした場面で調べられる言葉です。ところが、この問いは聞き方によって答えが変わります。

先に結論を書きます。他社と取引していること自体を禁じる決まりは、当サイトが確認した一次情報の範囲では見当たりません。民法にも、債権譲渡登記の根拠となる特例法にも、金融庁の注意喚起にも、そうした規定はありません。問題になるのは併用そのものではなく、すでに売った債権を、もう一度売ってしまうことです。これを二重譲渡と呼びます。

ただし、法令が禁じていないことと、契約が許していることは別です。すでに結んでいる契約書に、重ねて譲渡しない旨の約束や、他社と取引するときの通知義務が書かれていれば、そちらが先に効きます。この記事では、法令の側と契約の側を分けて確かめられるところまで進みます。すでに使っている会社をやめて移る場合はファクタリング会社を乗り換える方法、1つの債権について複数社から見積りを取る場合は複数社への申込みが近い話です。

禁じられているのは併用ではなく、同じ債権を重ねて売ること

金融庁は、ファクタリングを、事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービスであり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約であると説明しています(2026年9月7日確認)。売買である以上、売れるのは自分がまだ持っている債権だけです。すでに売った債権は、もう自分のものではありません。

ここから、「他社利用中」という言葉が2つの状態をまとめて指していることが見えてきます。1つ目は、先に売ったのとは別の債権を、これから別の会社へ売る場合です。手元にある別の請求書を売るのですから、二重譲渡の話にはなりません。2つ目は、先に売った債権そのものを、もう一度別の会社へ売ってしまう場合です。こちらは、自分のものではなくなった債権を売ることになります。

この2つを分けないまま「他社を使っていても申し込めますか」と質問すると、答えが噛み合いません。窓口の担当者は1つ目の意味で答え、こちらは2つ目を心配している、という食い違いが起きます。先に自分の手元で仕分けてから相談してください。仕分けの手順は次のとおりです。

これから売る債権について、売掛先の名称、取引の内容と請求書番号、請求金額、支払期日の4項目を照合し、4つとも一致する債権がある場合、一致する債権が無い場合、一部だけ一致する場合の3つに分けて次の行動を示した分岐図
図1:申し込む前に、請求書1件ごとに4項目を照合する照合する項目は、債権を特定するために契約書と請求書に書かれている情報から取りました。将来債権に関する注記は、e-Gov法令検索「民法」第467条1項(2026年9月7日確認)によります。

図の右下にある「一部だけ一致する」が、いちばん判断に迷うところです。自分では別の債権のつもりでも、契約の書き方によっては先の契約の対象に入っていることがあります。次の節で具体的に見ます。

「同じ債権」かどうかは、どこで線が引かれるのか

債権は、金額だけでは特定できません。誰に対する、どの取引から生まれた、いくらの、いつ払われる債権なのか。この4つがそろって、はじめて1本の債権として指し示せます。よくある状況を、この4項目に当てはめて並べます。

これから売ろうとしているもの 先に売った債権と同じか 申し込む前に確かめること
別の売掛先に対する請求書 別の債権です 先の契約に、売掛先を限定しない包括的な定めが無いか
同じ売掛先の、翌月ぶんの請求書 期日と取引が違えば別の債権です 先の契約が「この売掛先に対する債権すべて」を対象にしていないか
先に売った請求書のうち、売らずに残した金額 同じ請求書の一部です。切り分けの記録が要ります 先の契約書で、いくらぶんを譲渡したと特定されているか
すでに入金された債権と同じ番号の請求書 債権は消えています。売る対象がありません 入金の消込みが済んでいるか。口座の履歴と請求書番号を突き合わせる
継続的な取引について、将来ぶんもまとめて譲渡済み まだ発生していない請求書も対象に入っている場合があります 契約書の「譲渡の対象」の条項と、債権譲渡登記の有無

いちばん下の行を補足します。民法467条1項は、債権の譲渡について「現に発生していない債権の譲渡を含む」と明記しています(2026年9月7日確認)。まだ請求書を作っていない取引でも、譲渡の対象にできるということです。継続的な取引がある売掛先について、期間を区切って将来ぶんをまとめて譲渡する契約になっていると、これから作る請求書が、作った時点ですでに他社へ移る約束になっていることがあります。

この形は、手元の請求書だけを見比べても気づけません。照合の前に、先に結んだ契約書の「譲渡の対象」を定めた条項を読んでください。債権譲渡という手続きそのものの意味は債権譲渡とはにまとめています。

重ねて売ると、どちらが優先するのかという争いになる

同じ債権を2社へ売ってしまったとき、後の契約が自動的に無効になるわけではありません。争いになるのは、どちらが第三者に対して権利を主張できるかという順序の問題です。

民法467条1項は、債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、または債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができないと定めています。同条2項は、その通知または承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができないとしています。

もう1つの経路が債権譲渡登記です。動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(特例法)4条1項は、法人が債権を譲渡した場合において、その譲渡につき債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該債権の債務者以外の第三者については、民法467条の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなすと定めています。この場合、登記の日付が確定日付になります。法務省も、債権譲渡登記ファイルに記録することにより、当該債権の債務者以外の第三者について確定日付のある証書による通知があったものとみなされ、第三者対抗要件が具備されると説明しています(2026年9月7日確認)。

A社との売買契約、A社による債権譲渡登記、B社との売買契約、B社による確定日付のある証書での通知、支払期日という5つの出来事を仮の日付で時系列に並べ、第三者に対して主張できる順序が対抗要件を備えた先後で決まることを示したタイムライン
図2:契約した順ではなく、対抗要件を備えた順で並べ直すと何が起きているか日付は仕組みを読むための仮の例です。条文はe-Gov法令検索「民法」第467条、特例法第4条(いずれも2026年9月7日確認)によります。

図のとおり、契約した順番と、対抗要件を備えた順番は一致するとは限りません。先に契約したから安心、後から契約したから無効、という単純な話にはならないということです。実際にどちらが優先するかは事実関係によって変わり、争いになったときの判断は裁判所が行います。

売掛先の側から見ると、複数の会社から支払を求められる状態になります。どちらへ払えば債務を免れるのかが分からないので、支払を保留して照会が来ます。資金を早く受け取るための手続きが、かえって入金を止める原因になります。そして、その照会は取引先との関係に直接届きます。売掛先に知られない前提で進めていた場合、その前提も同時に崩れます。通知が必要になる場面は売掛先への通知が必要になるのはどんなときで扱っています。

売主の側に残るものは、契約の書き方によります。譲渡できる債権であることを保証する条項、重ねて譲渡しない旨の条項、違反したときの取り扱いが定められているのが通常です。どの条項に当たるのか、その効果は何かは、実際の契約書と事実関係を見なければ決まりません。当サイトでは個別の法的判断をしません。契約書を持って弁護士へ相談してください。

法務省「債権譲渡登記制度 第1 債権譲渡登記制度とは?」のページ。債権譲渡登記ファイルに記録することで、債務者以外の第三者について民法第467条の確定日付のある証書による通知があったものとみなされ、第三者対抗要件が具備されることが示されている
登記が第三者対抗要件になる、と説明されている一次情報法務省「債権譲渡登記制度 第1 債権譲渡登記制度とは?」の該当箇所(2026年9月7日取得)。本文で引用した登記の効力と、譲渡人が法人のみに限定されていることは、このページで確認しています。ページの内容と権利は法務省に帰属します。

自分が何を売ったのかは、自分で確かめられる

記憶と口座の履歴だけで判断しないでください。確かめる手立てが3つあります。

1つ目は、自社の記録です。契約書、個別の譲渡明細、送金の記録、そして請求書の控え。売った債権について、売掛先・請求書番号・金額・支払期日・売却日・売却先を1行にまとめた台帳を作ると、図1の照合がそのまま実行できます。

2つ目は、契約書の条項です。譲渡の対象、重ねて譲渡しない旨の約束、他社と取引する場合の通知義務、回収した資金の送金期限。この4か所を先に読みます。

3つ目が、登記の記録です。法務省が公開している交付請求の手続によると、証明書の種類ごとに請求できる人が分かれています。

証明書の種類 交付を請求できる人 請求先 手数料
登記事項概要証明書 誰でも可 債権譲渡登記所(東京法務局民事行政部債権登録課) 1通300円
概要記録事項証明書 誰でも可 全国の商業登記所・不動産登記所、法務局証明サービスセンター 1通300円(1通の枚数が50枚を超える場合は、その超える枚数50枚までごとに100円を加算)
登記事項証明書 当事者、利害関係人等のみ 債権譲渡登記所(同上) 個別事項証明は債権1個につき500円ほか

出典は法務省「債権譲渡登記制度 第3 証明書交付請求の手続」(2026年9月7日確認)です。読み取れるのは、自社について債権譲渡登記があるかどうかは、誰でも証明書で確かめられるということです。ただし、譲渡された個々の債権を特定する事項は、誰でも取れる証明書には記載されません。どの請求書が対象かまでは、自社の契約書で確認することになります。

ここで、対象になる人が限られる点に注意してください。特例法4条1項は「法人が債権を譲渡した場合」と定めており、法務省も、譲渡人は法人のみに限定されていると説明しています(2026年9月7日確認)。個人事業主が売主である場合、この登記の記録はそもそも作られません。個人事業主が確かめられるのは自社の契約書と入金記録だけになるので、台帳の作り方が一段と重要になります。登記そのものの費用は債権譲渡登記の費用はいくら?にまとめています。

2社と並行して取引すると、手元の管理が二重になる

別の債権であることを確かめられたとしても、実務の負担は増えます。とくに売掛先へ知らせない2社間ファクタリングでは、回収した資金を自分で各社へ送る流れになるためです。

売掛先Xと売掛先Yからの入金が自社の同じ口座に入り、そこからA社とB社へそれぞれ送金する流れを描き、口座の履歴だけでは入金と契約の対応が区別できないことと、送金が滞ると売掛先への通知が必要になることを示した関係図
図3:2社と並行して取引したときに、資金と送金の義務が重なる場所2社間の方式を前提に、資金の流れと送金の義務を整理したものです。送金が滞ったときに必要になる手続きは、e-Gov法令検索「民法」第467条1項および特例法第4条2項(2026年9月7日確認)によります。

同じ口座に2社ぶんの回収金が入るため、入金が1件遅れただけで、どちらへの送金が不足するのかが見えなくなります。送金が滞れば、譲受人が売掛先へ直接向かう理由が生まれます。入金後の資金の動きはファクタリング後の回収で扱っています。

費用の面も見ておいてください。手数料は買取ごとにかかるので、取引の回数が増えれば、その回数ぶん積み上がります。1社で足りない金額を2社に分けた場合、それぞれに手数料と、事務手数料や振込手数料などの費用が発生することがあります。内訳はファクタリングの手数料とは手数料以外にかかる費用にまとめました。各社が何を公表しているかはファクタリング会社の比較で、公式ページの表記のまま並べています。

「他社を使っていても大丈夫」という誘い方に気をつける

他社を利用中だと伝えたときの相手の反応は、判断材料になります。金融庁は、貸金業登録を受けていない者がファクタリングを装って貸付けを行う事案が確認されているとして注意を促しています(2026年9月7日確認)。同庁が貸金業に該当するおそれがあるとして挙げているのは、次のような内容です。

譲渡した債権の回収が業者から売主に委託されていて、売主が集金できなかった場合に売主が債権を買い戻すこととされているもの。売主自身の資金により業者へ支払をしなければならないこととされているもの。そして、受け取る買取代金が債権額に比べて著しく低額であるもの。

資金が足りていない状態で追加の相手を探しているときほど、この条件を読み飛ばしやすくなります。買戻しや償還請求の意味は償還請求権とは、制度としての位置づけはファクタリングは違法なのかで扱っています。

もう1つ、この記事の主題に直結する危険信号があります。「他社に売った債権でも構わない」「先の会社には黙っていればよい」と勧めてくる相手です。売主に二重譲渡をさせる話であり、契約上の責任は売主に向かいます。提示された契約が貸付けではないかと不安なときは、金融庁の金融サービス利用者相談室(0570-016811、平日10時00分から17時00分)へ相談できます。貸金業に関する相談・苦情・紛争は、日本貸金業協会の貸金業相談・紛争解決センター(0570-051051、9時00分から17時00分、土日祝・年末年始を除く)が窓口です。

申し込む前に、手元で用意する3つ

整理します。他社と取引していること自体を禁じる規定は、確認した一次情報の範囲では見当たりません。禁じられるのは、すでに売った債権を重ねて売ることです。だから確かめるのは「他社を使っているか」ではなく、「これから売る債権を、まだ自分が持っているか」になります。

そのために用意するものは3つです。1つ目は、売った債権の台帳。売掛先・請求書番号・金額・支払期日・売却日・売却先を1行にまとめ、図1の4項目で照合できる形にします。2つ目は、先に結んだ契約書。譲渡の対象、重ねて譲渡しない旨の約束、通知義務、送金期限の4か所に印を付けておきます。3つ目は、法人であれば登記の記録です。誰でも請求できる証明書で、自社に債権譲渡登記があるかどうかを確かめられます。

そのうえで、新しく相談する会社には先に他社との取引があることを伝えてください。隠して進めると、後から出てきたときに契約上の問題になります。相談の場で必要になる書類はファクタリングの必要書類に整理しました。

次に読むなら、1つの債権について複数社の見積りを比べる複数社への申込み、いま使っている会社をやめて移るファクタリング会社の乗り換え、ほかの状況別の論点をたどる利用条件・ケース別へ進んでください。契約書の条項の意味や、二重譲渡に当たるかどうかの判断は、契約の前に弁護士など権限のある窓口へ確認してください。税務上の扱いは税理士へご相談ください。

この記事の出典

手数料・条件・手続きは、下の一次情報で確認できた表記だけを載せています。 確認日以降に変更されている場合があるため、申込みの前に各社の公式ページで確かめてください。