請求書を出している相手が、会社ではなくひとりのお客さまだった。個人のお宅の工事代金、個人のお客さまに納めた商品の代金、個人で申し込まれたサービスの料金。入金が先延ばしになったときに、その未収金を売って早く現金にできないか。この記事を開いた方の手元には、そういう請求書があるはずです。
先に結論を書きます。条文の側に、それを禁じる規定はありません。民法466条1項は「債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。」と定めているだけで、お金を払う側が事業者かどうかには触れていません。話が止まるのはそこではなく、買い手が公表している「買取の対象」の側です。
当サイトが公表表記を記録している20社のうち、買取の対象になる債権について何らかの記述があるのは5社で、その記述の中で売掛先がどういう相手かに触れているのは1社です。そしてその1社は、売掛先が法人または官公庁であることを条件として書いています。言いかえると、売掛先が事業者でない個人でも対象になると公表している会社は、記録した20社の中に1社もありません。ただしこれは「対象外」ではなく「公表されていない」という意味です。この2つを混ぜないことが、この記事でいちばん大事な点になります。
以下では、条文がどこまで認めているのか、各社の公表表記がどこで線を引いているのか、相手が事業者でない個人になると何が入れ替わるのかを順に確かめます。売掛先が個人事業主、つまり相手も事業者である場合は論点が別なので、売掛先が個人事業主でも売れるのかにまとめました。個別の取引が法律上どう扱われるかの判断は当サイトでは行いません。契約の可否は弁護士に、税務は税理士に確認してください。
条文は、払う相手が事業者かどうかで分けていない
民法466条1項は、債権は譲り渡すことができるという原則から始まります。例外として挙げられているのは「その性質がこれを許さないとき」だけで、債務者の属性は条件に入っていません。個人のお客さまに対する代金の請求権も、この原則の中にあります。ここで止まると考えていた方は、まず前提を入れ替えてください。止める理由は、条文ではなく別のところにあります。
同じ条文の2項から4項には、覚えておく値打ちのある仕組みが続いています。2項は、当事者が債権の譲渡を禁止し、または制限する旨の意思表示をしたときであっても、債権の譲渡はその効力を妨げられないと定めています。契約書や利用規約に「譲渡禁止」と書いてあっても、譲渡そのものは無効になりません。ところが3項は、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、または重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者はその債務の履行を拒むことができ、かつ譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができるとしています。
つまり、買った側が払ってもらえない場面が条文の中に残っているということです。消費者向けの申込書や約款には、個人のお客さまが気づかないまま譲渡を禁じる一文が入っていることがあります。審査で契約書の提出を求められるのは、金額の裏づけを見るためだけではありません。この定めの有無も読まれる対象です。4項は、債務者が債務を履行しない場合に、第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは適用しないとしていますが、ここまで来ると回収は長引きます。条項の読み方は譲渡禁止特約があるときに整理しました。
なお、金融庁は一般にファクタリングとは、事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービスであり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約であるとしています。この説明が条件にしているのは「事業者が保有している」ことで、支払う相手が事業者であることではありません。借入との違いはファクタリングと融資の違いにまとめています。
「個人」が出てくる場所を4つに分ける
この話がこじれる理由は、「個人」という言葉が2か所に出てくることです。債権を持っている側が個人なのか、お金を払う側が個人なのか。この2つを分けないまま調べると、まったく違う取引の説明を自分の場合の答えとして読んでしまいます。
左上が、ふつうに語られるファクタリングです。事業者が持っている売掛金を、事業者である売掛先から回収する形で、掲載している各社の説明もこの形を前提に書かれています。右上がこの記事の場合で、債権を持っているのは事業者のまま、払う相手だけが事業者でない個人に入れ替わります。
左下は、まったく別の取引です。金融庁は、業として、個人が使用者に対して有する賃金債権を買い取って金銭を交付し、その個人を通じて当該債権に係る資金の回収を行うことは貸金業に該当するとしています。いわゆる給与ファクタリングで、当サイトはこの取引の利用を案内しません。同じページでは、貸金業の登録を受けていない業者により年利換算で数百から千数百パーセントになるような法外な利息が生じるおそれにも触れられています。事業者向けのファクタリングとの違いは給料ファクタリングとの違いにまとめました。右下は、個人どうしの貸し借りや立替えで、事業者が保有している売掛債権等にあたりません。
自分が個人事業主として申し込めるかどうかは、この表の縦軸の話です。そちらはファクタリングは個人でもできるかで扱っています。「個人事業主でも利用できます」という各社の案内は、申込む側の条件であって、売掛先が個人でよいという意味ではありません。
掲載している20社の公表表記では、売掛先の属性に触れているのは1社だけ
ここからが実務の話です。条文が認めていても、買い取るかどうかを決めるのは買い手です。当サイトは20社について、公式ページの表記をそのまま記録し、項目ごとに出典と確認日を付けています。その記録を、知りたいことに近い順で数え直しました。
申込む側の条件、つまり個人事業主が利用できるかどうかについては、20社のうち17社が何らかの表記を出しています。そのうち1社は利用できないと明記しています。公表が多いのはここまでです。買取の対象になる債権について記述があるのは5社に減り、その記述の中で売掛先がどういう相手かに触れているのは1社になります。
記録した5社の表記を、そのまま並べます。言い換えや要約はしていません。
| 会社 | 記録した「買取の対象」の表記 | 確認日 |
|---|---|---|
| OLTA クラウドファクタリング | 買取対象は、売掛先が法人または官公庁で、入金日と入金額が確定している「確定債権」 | 2026年8月19日 |
| 日本中小企業金融サポート機構 | すでに仕事が完了している売掛金であれば買取対象になります | 2026年8月19日 |
| ジャパンマネジメント | 請求が確定している債権、請求後入金待ちの債権。遅延債権・回収不能な債権・虚偽債権は対象外 | 2026年8月19日 |
| Mentor Capital | 遅滞されていなく、通常の商取引で発生した全ての売掛債権が対象 | 2026年8月19日 |
| えんナビ | 弊社では最低50万円から買取業務を行わせて頂いております | 2026年8月19日 |
5社の記述は、見ている切り口がそろっていません。仕事が完了しているか、請求が確定しているか、商取引で発生したものか、金額が下限を超えているか。売掛先がどういう相手かという軸で線を引いているのは、表の1行目だけです。残りの15社については、買取の対象そのものが公表されていません。
この数字の読み方を2つだけ補足します。ひとつめは、0社を「どこも買い取らない」と読まないことです。記録しているのは公表されている表記だけで、公表されていない条件を当サイトが推測して埋めることはしません。ふたつめは、1社が法人または官公庁と書いていることを、業界全体の基準として読まないことです。それは1社の公表条件です。各社の項目はファクタリング会社の比較に出典と確認日つきで並べてあるので、「買取の対象」と「個人事業主の利用」の行を自分で数え直せます。
実際に確かめる段では、見積りの依頼が最短の道になります。売掛先が事業者でない個人であることを先に伝えて、買取の対象になるかを聞く形です。手順は見積りの取り方と比べ方にまとめました。
支払期日の上限を定める法律は、相手が消費者だと働かない
なぜ各社の説明が事業者間の取引を前提にしているのか。理由のひとつは、入金日を後ろから支えてくれる法律が、相手が消費者だと働かないことにあります。審査で見られるのは売掛先が払えるかどうかと、いつ払うと決まっているかです。後者の根拠が細くなります。
事業者間の取引には、支払期日の上限を定めた法律が2つあります。どちらも、適用される取引を定義の段で事業者どうしに限っています。
| 法律 | 適用される取引(定義) | 支払期日についての定め |
|---|---|---|
| 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法) | 委託事業者が中小受託事業者に製造委託等をする取引(第2条) | 委託事業者が中小受託事業者の給付を受領した日から起算して六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において定めなければならない(第3条第1項) |
| 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法) | 事業者が他の事業者に物品の製造や情報成果物の作成、役務の提供を委託する業務委託(第2条) | 特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から起算して六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において定めなければならない(第4条第1項) |
| 相手が事業者でない個人のとき | 上の2つはいずれも事業者間の委託を対象にしているため、当てはまらない | 支払期日の上限を定める規定がない。契約書・注文書・利用規約に書かれた定めだけが根拠になる |
取適法は、委託事業者と中小受託事業者を資本金や従業員数で区切り、その間の製造委託等を対象にしています。フリーランス法は、業務委託を「事業者が他の事業者に」委託することと定義しています。どちらも、払う側が事業者であることを出発点にしています。相手が事業者でない個人なら、この2つの六十日は出てきません。
さらに取適法4条1項は、委託事業者に対し、給付の内容、代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を書面または電磁的方法で直ちに明示することを求めています。事業者間では、期日が書面で残っていることが法律で押さえられている場面があります。消費者相手の取引では、この明示義務の後ろ盾もありません。期日の根拠は、自分が交わした契約書と利用規約の中にしかないことになります。
ここで、表の1行目に戻る値打ちがあります。OLTAが入金日と入金額が確定していることを条件に挙げ、ジャパンマネジメントが請求が確定している債権と書いているのは、確定しているかどうかが買い手にとっての核心だからです。相手が消費者のときは、その確定を法律ではなく自分の書類で示すことになります。どんな売掛金が条件にあてはまるかの全体像はファクタリングできる売掛金の条件にまとめました。
払われなかったときの行き先が、事業者のときと違う
払われなかった場合の道筋も入れ替わります。売掛先が法人なら、破産手続や再生手続という枠の中で債権者として扱われます。相手が事業者でない個人の場合は、自己破産や個人再生が選ばれることになり、そのうち自己破産では免責という仕組みが入ります。
破産法253条1項は、免責許可の決定が確定したときは、破産者は破産手続による配当を除き、破産債権についてその責任を免れると定めています。租税等の請求権や悪意の不法行為に基づく損害賠償請求権などは除かれていますが、通常の商品代金やサービス料金はこの除外に並んでいません。免責が確定すれば、その請求権は追いかけられなくなります。当てはまるかどうかは債権の内容で変わるため、個別の判断は弁護士に確認してください。
この行き先の違いは、契約の条項の読み方に直結します。金融庁は、譲渡債権の回収がファクタリング業者から売主に委託されており、売主が集金できない場合には売主が債権を買い戻すこととされているものについて、貸金業に該当するおそれがあるとしています。回収できなかったときの負担が自分に戻る形になっていないかを、契約書で確かめる場面です。償還請求権の意味は償還請求権とはに整理しました。相手が消費者で、入金が止まる可能性を意識するなら、ここは読み飛ばせません。
3社間にすると、その個人へ通知するか承諾をもらうことになる
もうひとつ、相手が個人だからこそ重くなるのが対抗要件です。民法467条1項は、債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、または債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができないと定めています。2項は、その通知または承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができないとしています。
条文は、債務者が会社か個人かで書き分けていません。変わるのは、通知を受け取る相手が自分のお客さま本人になるということです。3社間の形を選ぶなら、個人のお客さまへ「この代金を別の会社へ譲渡しました」と伝え、そこへ払ってもらうことになります。方式の違いは3社間ファクタリングとはに、通知が必要になる場面の整理は売掛先への通知が必要になるときにあります。
逆に、通知をしない形を選ぶ場合は、入金は自分の口座に入り、それをファクタリング会社へ渡す流れになります。このとき、渡せなかったときの扱いが契約書にどう書かれているかが、前の節の論点に戻ってきます。相手が個人で、支払期日の上限を定める法律も働かないのであれば、この条項の確認はいっそう重くなります。
申し込む前に確かめる4点
ここまでを、手を動かす順番に置き直します。
01でまず分けるのは、その未収金を払うのが事業者か、事業者でない個人かです。請求書の宛名が法人名か屋号か個人名か、そしてその取引が相手の事業のためのものかどうかで決まります。屋号で請求書をやり取りしている相手は、事業者である可能性があります。その場合は図1の右上ではなく左上の側、つまり売掛先が個人事業主でも売れるのかの話になります。
02は、申し込もうとしている会社が買取の対象をどう書いているかを読む段階です。書かれていない会社を「対象外」と決めつけず、問い合わせで確かめます。03は入金日と入金額の根拠で、相手が消費者なら契約書と利用規約だけが根拠になります。04は、3社間にするかどうかと、通知を受け取るのがお客さま本人になるという事実です。
整理
売掛先が事業者でない個人の未収金について、押さえておく点は4つです。民法466条1項は債権の譲渡を認めており、払う相手が事業者かどうかで分けていないこと。それでも、買い手が公表している買取の対象の側で線が引かれていること。支払期日の上限を定める取適法3条1項とフリーランス法4条1項は、いずれも事業者間の委託を対象にしているため相手が消費者では働かないこと。そして、払われなかったときの行き先に破産法253条1項の免責が入ることです。
掲載20社の公表表記では、買取の対象について記述があるのが5社、売掛先の属性に触れているのが1社、事業者でない個人の売掛先でも対象になると公表している会社は0社でした。0社は「公表されていない」という意味で、「どこも買い取らない」ではありません。可否は各社が決めるので、自分の請求書の宛名と期日の根拠を手元に置いて、直接確かめてください。
売掛金の条件を先に押さえたい場合はファクタリングできる売掛金の条件へ、各社の公表条件を並べて見るならファクタリング会社の比較へ進んでください。ほかの利用条件をケース別に確かめるなら利用条件・ケース別にまとめてあります。
この記事の出典
手数料・条件・手続きは、下の一次情報で確認できた表記だけを載せています。 確認日以降に変更されている場合があるため、申込みの前に各社の公式ページで確かめてください。
- e-Gov法令検索「民法」(明治二十九年法律第八十九号)第466条・第467条 公的機関 / 確認日 2026年11月2日
- e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(昭和三十一年法律第百二十号)第2条・第3条・第4条 公的機関 / 確認日 2026年11月2日
- e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和五年法律第二十五号)第2条・第4条 公的機関 / 確認日 2026年11月2日
- e-Gov法令検索「破産法」(平成十六年法律第七十五号)第253条 公的機関 / 確認日 2026年11月2日
- 金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」 金融庁 / 確認日 2026年11月2日
- 金融庁「給与の買取りをうたった違法なヤミ金融にご注意ください!」 金融庁 / 確認日 2026年11月2日
- OLTA クラウドファクタリング 公式サイト(買取の対象の表記) 各社の公式ページ / 確認日 2026年8月19日