売掛先が倒産した場合

売掛先が倒産したら売掛金はどうなる?届出・相殺・先取特権の確認

売掛先が倒産したあと、売掛金について取れる手続きは破産手続での債権届出、相殺、動産売買の先取特権に分かれます。破産法と民事再生法の条文で期限と条件を確かめ、ファクタリングが効く局面との違いも整理します。

取引先の倒産を知ったとき、最初に出てくる問いは「あの売掛金はどうなるのか」です。先に結論を書きます。売掛先が破産手続に入ったあとの売掛金は、原則として破産手続の中でしか行使できません。破産法100条1項が、破産債権は、この法律に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ、行使することができないと定めているためです。電話を重ねて督促する、という進め方はこの時点で閉じます。

ただし、閉じるのは個別の督促です。手続の外に残る道が2つあります。自社も売掛先に対して債務を負っているときの相殺と、納めた商品が売掛先の手元に残っているときの動産売買の先取特権です。どちらも条文に要件と時期が書かれていて、知らないまま期間が過ぎると使えなくなる側があります。

この記事では、倒産の知らせが届いたあとに売掛金についてできることを、破産法・民事再生法・民法の条文から順に確かめます。すでにファクタリングで売った債権の負担がどちらへ向かうのかは売掛先が倒産したら買取代金は返すことになるのかで扱っているので、こちらではまだ自社が持っている売掛金を中心にします。手続の中身や期間は事件ごとに裁判所が定めるため、個別の判断は弁護士に確認してください。

最初に分かれるのは、その売掛金をまだ自社が持っているかどうか

金融庁は、一般にファクタリングとは、事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービスであり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約であるとしています。売買である以上、売った時点でその債権は買主のものになります。倒産の知らせを受けて最初に確かめるのは、問題になっている売掛金を自社がまだ持っているかどうかです。

売掛先の支払が止まったあと、売掛金について取れる手続きが、債権を譲渡済みか、どの手続に入ったか、自社も債務を負っているか、納めた商品が残っているかという4つの分かれ道で決まることを順に示した分岐図
図1:4つの分かれ道で、取れる手続きが決まる①は債権の帰属、②は手続の種類、③は相殺の可能性、④は動産売買の先取特権です。条文はe-Gov法令検索の破産法・民事再生法・民法、ファクタリングの定義は金融庁の注意喚起によります(2026年10月30日確認)。

譲渡済みであれば、債権者として手続に向き合うのはファクタリング会社です。自社に負担が戻るかどうかは、契約書に買戻しまたは支払の定めが置かれているかで決まります。金融庁は、売主が債権を買い戻すこととされているもの、売主自身の資金によりファクタリング業者に支払をしなければならないこととされているものについて、貸金業に該当するおそれがあるとしています。条項の読み方は償還請求権とはにまとめました。

まだ売っていない売掛金は、自社の債権のままです。ここから先はこの場合の話になります。なお、同じ債権を複数の会社へ譲渡していた場合は帰属そのものが争点になります。その整理は他社を利用中に別の会社へ申し込む場合にあります。

破産債権になった売掛金は、手続の外では行使できない

破産法2条5項は、破産債権とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって、財団債権に該当しないものをいうと定めています。商品を納め、役務を提供したことで生じた売掛金は、開始前の原因に基づいて生じた請求権です。手続が始まった時点で、自社の立場は「破産債権者」になります。

そのうえで100条1項が、破産債権は破産手続によらなければ行使することができないと定めています。督促状を送っても、この枠の外では効き目がないということです。逆に言えば、何もしなければ何も起こりません。手続に参加する意思は、自分から示す必要があります。

もうひとつ、先に知っておく価値があるのが廃止の規定です。破産法216条1項は、裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならないと定めています。届け出れば必ず戻る、という性質の手続きではありません。東京地方裁判所民事第20部(倒産部)は、通常は、破産手続開始の決定時点の債務者の全ての財産を金銭に換えた上で、法律が定める優先順位に従い、債権者に平等に分配(配当)しますと案内しています。分配の対象になるのは換価できた財産であり、届け出た額がそのまま戻るわけではありません。

期待できる金額が読めないことは、この局面での資金繰りの組み方に直結します。入金予定から外す判断が必要になるため、資金繰り表の作り方もあわせて確認してください。

届出の期限は裁判所が決める。通知で知らされ、期間内に届け出る

手続に参加する入口が債権届出です。期限は債権者が選べません。破産法31条1項は、裁判所は、破産手続開始の決定と同時に、一人又は数人の破産管財人を選任し、かつ、次に掲げる事項を定めなければならないとし、その1号に「破産債権の届出をすべき期間」を挙げています。この期間が、条文でいう債権届出期間です。

破産手続開始の決定、公告と知れている破産債権者への通知、債権届出期間内の届出、破産債権の調査、配当という5つの工程を01から05まで順に並べ、自社が動くのは03の届出であることを示した工程図
図2:期限は01で決まり、02で知らされ、自社が動くのは03各工程に添えた条文は、破産法31条1項1号、32条1項3号・3項1号、111条1項・2項、31条1項3号、100条1項および216条1項です(e-Gov法令検索で2026年10月30日に確認)。期間の長さは事件ごとに裁判所が定めます。

決まった期間は、放っておいても届きます。32条1項は、裁判所が破産手続開始の決定をしたときに直ちに公告すべき事項を列挙し、その3号に「前条第一項の規定により定めた期間又は期日」を挙げています。さらに32条3項は、公告した事項を通知すべき相手として、1号で「破産管財人、破産者及び知れている破産債権者」を挙げています。売掛先の帳簿に債権者として載っていれば、通知が届く側です。届いた書面に期限が書かれているので、まずその日付を確かめてください。

届け出る事項は111条1項が定めています。1号から5号までが一般の破産債権者の分、2項が別除権者の分です。

届け出る事項 根拠の条文
各破産債権の額及び原因 破産法111条1項1号
優先的破産債権であるときは、その旨 破産法111条1項2号
劣後的破産債権又は約定劣後破産債権であるときは、その旨 破産法111条1項3号
自己に対する配当額の合計額が最高裁判所規則で定める額に満たない場合においても配当金を受領する意思があるときは、その旨 破産法111条1項4号
前各号に掲げるもののほか、最高裁判所規則で定める事項 破産法111条1項5号
別除権の目的である財産(別除権者) 破産法111条2項1号
別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額(別除権者) 破産法111条2項2号

条文はe-Gov法令検索「破産法」第111条(2026年10月30日確認)です。1号の「額及び原因」が、実務でいちばん手間のかかる部分です。いつの取引で、いくらの請求権が生じたのかを示すことになるため、注文書・納品書・請求書の控えがそのまま裏づけになります。東京地方裁判所民事第20部(倒産部)は、破産債権の届出をする場合、「破産債権者の表示」及び「届出破産債権の表示」に必要事項を記載し、証拠書類のコピー等の必要書類を添付した上で、定められた期限までに到着するように、「破産手続開始通知書」の1(4)に記載された破産管財人宛に送付してくださいと案内しています。

東京地方裁判所民事第20部(倒産部)「よくある質問」のページ。破産手続、個人再生手続、民事再生手続、会社更生手続、特別清算手続という手続ごとに質問が分かれている
届出書の記載事項と送付先を案内している一次情報東京地方裁判所民事第20部(倒産部)「よくある質問」の冒頭。上に引いた届出書の記載事項・添付書類・送付先と、配当の説明は、このページで確認しています(2026年10月30日取得)。ページの内容と権利は裁判所に帰属します。

条文は「裁判所に届け出なければならない」と定め(111条1項)、東京地裁の案内では送付先として破産管財人が示されています。実際の送付先と様式は、届いた通知の記載に従ってください。書類を集めるのに時間がかかるため、通知が届いた日のうちに期限と必要書類を確かめ、取引の記録を先にそろえておくほうが確実です。

自社も支払う側なら、相殺という別の道がある

売掛先との取引が一方通行でないことは珍しくありません。互いに発注し合っている、値引きや返品の精算が残っている、前受金を受け取っている。こうした場合、自社は債権者でありながら債務者でもあります。ここで効いてくるのが相殺です。

破産法67条1項は、破産債権者は、破産手続開始の時において破産者に対して債務を負担するときは、破産手続によらないで、相殺をすることができると定めています。100条1項の「手続によらなければ行使できない」の例外が、ここに置かれています。同条2項は、破産債権者の有する債権が破産手続開始の時において期限付若しくは解除条件付であるときなどでも、1項の規定により相殺をすることを妨げないとしています。

ただし、売掛先が民事再生法による再生手続に入った場合は、同じ相殺でも時期の限定が違います。

相殺の根拠となる条文、相殺ができる時期、できなくなる場合という3つの軸で、破産手続に入った場合と再生手続に入った場合を左右に並べ、再生では債権届出期間内に限られることを示した比較マトリクス
図3:破産では条文に期間の限定がなく、再生では債権届出期間内に限られる条文はe-Gov法令検索「破産法」第67条第1項・第71条第1項と「民事再生法」第92条第1項・第94条第1項によります(2026年10月30日確認)。相殺ができるかどうかは債権と債務の内容で変わるため、当サイトでは個別の可否を判断しません。

民事再生法92条1項は、再生債権者が再生手続開始当時再生債務者に対して債務を負担する場合において、債権及び債務の双方が94条1項に規定する債権届出期間の満了前に相殺に適するようになったときは、再生債権者は、当該債権届出期間内に限り、再生計画の定めるところによらないで、相殺をすることができると定めています。再生では、届出の期限と相殺の期限が重なっています。届出書を書く段階で、相殺するかどうかも決めることになります。なお94条1項は、再生手続に参加しようとする再生債権者は、債権届出期間内に、各債権についてその内容及び原因などを裁判所に届け出なければならないとしており、この点は破産と同じ構えです。

破産の側にも、時期とは別の制限があります。71条1項が、相殺をすることができない場合を4つ挙げています。

相殺をすることができない場合 根拠の条文
破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担したとき 破産法71条1項1号
支払不能になった後に契約によって負担する債務を専ら破産債権をもってする相殺に供する目的で破産者の財産の処分を内容とする契約を破産者との間で締結し、又は破産者に対して債務を負担する者の債務を引き受けることを内容とする契約を締結することにより破産者に対して債務を負担した場合であって、当該契約の締結の当時、支払不能であったことを知っていたとき 破産法71条1項2号
支払の停止があった後に破産者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、支払の停止があったことを知っていたとき(当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない) 破産法71条1項3号
破産手続開始の申立てがあった後に破産者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、破産手続開始の申立てがあったことを知っていたとき 破産法71条1項4号

条文はe-Gov法令検索「破産法」第71条(2026年10月30日確認)です。2号から4号までには例外があり、71条2項は、これらの債務の負担が法定の原因に基づく場合、支払不能であったことまたは支払の停止もしくは破産手続開始の申立てがあったことを破産債権者が知った時より前に生じた原因に基づく場合、破産手続開始の申立てがあった時より一年以上前に生じた原因に基づく場合には適用しないとしています。

通して読むと、禁止されているのは相手の危うさを知ったうえで、相殺に使える債務をあとから作る動きです。以前から続いている取引の中で生じていた買掛金は、2号から4号までの形とは成り立ちが違います。どちらにあたるかは債務が生じた時期と原因で決まるため、契約書と帳簿の日付をそろえて弁護士に相談してください。

納めた商品が売掛先に残っているなら、先取特権を確認する

商品を売る取引では、もうひとつ確認する余地があります。民法311条は、次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有するとし、その5号に「動産の売買」を挙げています。そして321条が、動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在すると定めています。代金が払われていない商品そのものに、売主の権利が残っているということです。

この権利は、破産手続の枠の外で働く余地があります。破産法2条9項は、別除権とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者が、これらの権利の目的である財産について65条1項の規定により行使することができる権利をいうとしています。そして65条1項は、別除権は、破産手続によらないで、行使することができると定めています。手元の債権が条文のどれにあたるかの当てはめは財産の状況で変わるため、当サイトでは個別の可否を判断しません。弁護士に確認してください。

使える場面が狭いことも、先に知っておいてください。民法333条が、先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができないと定めているためです。納めた商品が転売され、引き渡されていれば、その商品を追いかけることはできません。加工されて別の物になっている場合も、同じ問題が出てきます。倒産の知らせを受けた直後に、納品した商品が倉庫に残っているかどうかを確かめる値打ちがあるのは、この条文があるからです。

別除権を持つ場合でも、届出そのものは必要です。破産法111条2項が、別除権者は1項各号に掲げる事項のほか、別除権の目的である財産と、別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額を届け出なければならないとしています。上の表の下2行がこれにあたります。

ファクタリングは期日前の仕組み。倒産後に効くのは残っている売掛金のほう

ここまでが、倒産した売掛先に対する売掛金の話です。では、ファクタリングはこの局面で何に効くのか。金融庁の定義に戻ると、ファクタリングは売掛債権等を期日前に買い取るサービスです。支払期日を過ぎ、売掛先が法的整理に入った債権は、この前提の外側にあります。手続の中で届け出て結果を待つ段階に入った債権を、売って早く現金化するという話ではなくなっています。

実際に資金繰りを立て直す場面で使えるのは、倒産していないほかの売掛先に対する、支払期日前の売掛金です。ファクタリングの審査で中心に見られるのは売掛先の支払能力なので、どの売掛先の債権を持ち込むかで結果が変わります。見られている対象は売掛先の信用力にまとめました。各社が公表している買取の対象や買取可能額の範囲はファクタリング会社の比較に、出典と確認日つきで並べています。申込みの前に、どんな債権を買い取ると書かれているかを自分で確かめてください。

次に同じことが起きたときの備えも、この局面で考えておく値打ちがあります。債権を売らずに保証を付けておく契約として保証型ファクタリングがあり、中身は保証型ファクタリングにまとめました。回収できなかった売掛金の税務上の扱いは別の論点で、ファクタリングと貸倒引当金で国税庁の公表資料をもとに整理しています。当サイトでは個別の税務判断を行いません。仕訳や損金に算入する時期は税理士に確認してください。

倒産の知らせが届いたあとに動く順番

整理します。売掛先が破産手続に入ると、その売掛金は破産債権になり、破産法100条1項により破産手続によらなければ行使できません。参加の入口は債権届出で、期限は裁判所が開始の決定と同時に定め(31条1項1号)、公告と、知れている破産債権者への通知で知らされます(32条1項3号・3項1号)。届け出る事項は111条1項と2項に並んでいます。

手続の外に残る道は2つです。自社も売掛先に債務を負っているなら相殺(破産法67条1項)、納めた商品が売掛先に残っているなら動産売買の先取特権(民法311条5号・321条、別除権としての行使は破産法65条1項)です。前者は71条1項の4つの場合にあたらないこと、後者は第三取得者へ引き渡される前であることが条件になります。売掛先が再生手続に入った場合は、相殺が債権届出期間内に限られます(民事再生法92条1項)。

動く順番は、通知で期限を確かめる、取引の記録を集めて届出書を作る、相殺と先取特権の余地を同時に確かめる、の3つです。分配があるかどうかと、その額は手続の結果によります。すでにファクタリングで売った債権の負担がどちらへ向かうのかは売掛先が倒産したら買取代金は返すことになるのかへ、ファクタリング会社へ渡すはずの入金が止まったときの扱いはファクタリング会社へ支払えない場合へ、ほかの利用条件をケース別に確かめるなら利用条件・ケース別へ進んでください。

この記事の出典

手数料・条件・手続きは、下の一次情報で確認できた表記だけを載せています。 確認日以降に変更されている場合があるため、申込みの前に各社の公式ページで確かめてください。