法人税・所得税

ファクタリングと貸倒引当金|期末に残っていない売掛金は繰入れの基礎から外れる

期末に残っていない売掛金は貸倒引当金の繰入れの基礎に入りません。国税庁の算式と金銭債権の範囲、中小法人の法定繰入率、青色申告者の5.5パーセントを確認し、譲渡代金が未収のときに何が残るかまで整理します。

決算の直前に売掛金を譲渡すると、貸倒引当金の計算で手が止まることがあります。前期と同じ要領で売掛金を集計したのに、金額が合わないからです。理由は、繰入限度額の算式が「期末に残っている金銭債権」を出発点にしているところにあります。国税庁は原則の算式を「期末一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額 × 貸倒実績率」と示しています。掛ける相手が減れば、率が同じでも限度額は小さくなります。

この記事は、譲渡したあとに自社の帳簿へ何が残り、何が残らないのかを確認するためのものです。差額そのものが損金や必要経費になるかという論点はファクタリング手数料は損金になる?で扱っているので、ここでは触れません。見るのは、繰入れの基礎になる金額の側と、売掛先が支払えなくなったときに誰の帳簿で何が起きるかという側です。

根拠は国税庁のタックスアンサーと金融庁の公表資料に限ります。自社の申告でどう計算するかという当てはめは税務の判断にあたるため、当サイトでは行いません。最後に、税理士へ持っていく形で確認項目を並べます。

期末に残っていない売掛金は、繰入れの基礎に入らない

国税庁は、一括評価金銭債権を「売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権で、個別評価金銭債権を除いたもの」と説明しています。売掛金はここに入ります。ただし算式に出てくるのは「期末一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額」であり、期末という時点の指定が付いています。

ですから、譲渡の効力が期末より前に生じていて、その売掛金が決算整理を終えた帳簿に残っていなければ、集計の対象にはなりません。逆に、契約が期末より後なら、その売掛金は期末時点ではまだ自社の債権です。見るべきは譲渡の有無ではなく、譲渡の効力が生じた日と期末日の並びだということになります。金融庁もファクタリングを「法的には債権の売買(債権譲渡)契約」と説明していて、売買である以上、売った側の帳簿から出ていくのが出発点です。

もう1つ、見落としやすい残りものがあります。譲渡の対価が期末までに入金されていない場合です。売掛金は帳簿から出ていきますが、代わりに受け取る権利が残ります。国税庁の一覧には、一括評価金銭債権に当たるものとして「未収の譲渡代金、未収加工料、未収請負金、未収手数料、未収保管料、未収地代家賃等または貸付金の未収利子で、益金の額に算入されたもの」という項目が挙げられています。この項目には益金の額に算入されたものという条件が付いているため、売掛債権の売却代金の未収がここに当たるかどうかは、その条件に照らした判断が必要になります。当サイトでは結論を出しません。

譲渡した売掛金が期末の一括評価金銭債権の集計に入るかどうかを、譲渡の効力が生じた日、期末の帳簿の残高、譲渡代金の未収、買戻し・償還請求の4つの順序で確認する判断フロー
図1:期末の集計に入るかどうかを決める4つの確認算式と金銭債権の範囲は国税庁「No.5501」「No.5500」、買戻しと自己資金での支払に関する記載は金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」によります(いずれも2026年10月29日確認)。4つの確認はいずれも自社の帳簿と契約書で行えます。

図の4番目に置いた買戻し・償還請求は、繰入れの計算よりも手前の問題です。金融庁は、売主が債権を買い戻すこととされているもの、売主自身の資金でファクタリング業者に支払をしなければならないこととされているものについて、貸金業に該当するおそれがあるとしています。こうした条項がある取引は、そもそも売買として整理できるかどうかが変わります。契約書のどこを読むかは契約書を渡されない場合で扱っています。

手形割引との違いは、一覧に書かれているかどうか

同じ「期日前に資金化する」方法でも、手形割引は扱いが違います。国税庁の一覧は、一括評価金銭債権に当たるものとして「売掛金、貸付金などの債権について取得した受取手形で裏書譲渡(割引を含みます。)をしたもの」を挙げ、「その裏書譲渡された受取手形の金額が財務諸表の注記等において確認できる場合に限ります」という条件を付けています。割引して手元から出ていった手形が、集計の対象として明文で書かれているわけです。

ここは、注記の有無が税務の集計に効いてくる珍しい箇所です。注記そのものの決まりは決算書の注記にまとめています。手形割引の仕組みは手形割引とはで確認できます。

一方で、売掛金そのものを売買で譲渡した場合に、同じように集計へ戻すという項目は、この一覧では確認できませんでした。確認できなかったことをそのまま書きます。なお、一括評価金銭債権に当たらないものの側には「法人がいわゆる特定目的会社(SPC)を用いて売掛債権等の証券化を行った場合において、その特定目的会社の発行する証券等のうちその法人が保有することとなったもの」という項目が置かれています。

国税庁の一覧での位置 記載されている項目 自社の帳簿を見るときの意味
当たるもの 売掛金、貸付金などの債権について取得した受取手形で裏書譲渡(割引を含みます。)をしたもの。注記等で金額が確認できる場合に限る 手形を割引して手元を離れていても、集計の対象として書かれている
当たるもの 未収の譲渡代金、未収加工料、未収請負金などで、益金の額に算入されたもの 対価が未入金のまま期末を越えたときに残る権利。条件に当たるかは判断が必要
当たるもの 他人のために立替払をした場合の立替金 立替えと、売掛先から回収して預かっている資金は別のものとして整理する
当たらないもの 特定目的会社(SPC)を用いた証券化で、その法人が保有することとなった証券等 証券化の形では、保有している証券等が明文で外れている
確認できなかった項目 売掛金そのものを売買で譲渡した場合を、集計へ戻すという記載 明文を確認できないため、期末の帳簿に残っているかどうかで考えることになる

繰入れができるのは誰か。法人と個人事業主で枠組みが違う

もう1つ先に確かめることがあります。そもそも貸倒引当金を繰り入れられるかどうかです。国税庁は、繰入れのできる適用法人を5つの区分に限定していると示しています。普通法人のうち期末の資本金の額等が1億円以下であるものなど、公益法人等または協同組合等、人格のない社団等、銀行・保険会社その他これらに準ずる法人、そして金融に関する取引に係る金銭債権を有する一定の法人です。1つ目の区分には、大法人による完全支配関係がある場合などの除外が細かく定められています。

率の側は2通りです。原則は過去3年間の貸倒損失の発生額から出す貸倒実績率で、中小法人、公益法人等または協同組合等、人格のない社団等については、これに代えて事業の区分ごとの法定繰入率を使うことができるとされています。

中小法人等が実績繰入率に代えて使える法定繰入率を、卸売業・小売業の千分の10、製造業の千分の8、割賦販売小売業等の千分の7、その他の事業の千分の6、金融業・保険業の千分の3の順に並べた横棒グラフ
図2:法定繰入率は事業の区分で決まり、譲渡しても率は動かない率と適用法人の区分は国税庁「No.5501 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定」(令和8年4月1日現在法令等)、個人の割合は「No.2070 青色申告制度」によります(2026年10月29日確認)。個人の5.5パーセントは別の制度のため、グラフには混ぜていません。

個人事業主の側には、青色申告の特典として同じ名前の制度が置かれています。国税庁は、事業所得を生ずべき事業を営む青色申告者が、事業の遂行上生じた売掛金や貸付金などの貸金の貸倒れによる損失の見込額として「年末における貸金の帳簿価額の合計額の5.5パーセント以下の金額」を貸倒引当金勘定へ繰り入れたときは、その金額を必要経費として認めると説明しています。金融業の場合は3.3パーセントです。ここでも条件は年末における帳簿価額で、法人と同じく時点の指定が付いています。

比較する項目 法人(一括評価) 個人事業主(一括評価)
使えるのは 国税庁が示す5つの区分に当たる法人 事業所得を生ずべき事業を営む青色申告者
基礎になる金額 期末一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額 年末における貸金の帳簿価額の合計額
率 貸倒実績率(中小法人等は法定繰入率も選べる) 5.5パーセント以下(金融業は3.3パーセント)
計算への入り方 損金の額に算入する 必要経費として認められる
根拠にした資料 国税庁「No.5501」「No.5500」 国税庁「No.2070 青色申告制度」
国税庁タックスアンサー「No.5501 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定」のページ冒頭。貸倒引当金を繰り入れることのできる適用法人が5つの区分に限定されていることと、繰入限度額が期末一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額に貸倒実績率を乗じて計算されることが示されている
適用法人と算式が示されている一次情報(引用)国税庁「No.5501 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定」の冒頭を引用しています(2026年10月29日取得・確認)。自社がどの区分に当たるかは、このページと根拠条文で確かめてください。ページの内容と表示の権利は国税庁に帰属します。

期末をまたぐと、繰入限度額はどこが動くのか

ここまでをつなぐと、ファクタリングで動くのは率ではなく、率を掛ける金額だということになります。仕組みを確かめるために、卸売業を営む中小法人を仮定して並べてみます。以下の金額はすべて仮定で、実勢値でも特定の会社の条件でもありません。

期末の一括評価金銭債権が2,000万円で、法定繰入率の千分の10を使う場合、繰入限度額は20万円になります。このうち500万円分の売掛金について、期末より前に譲渡の効力が生じていて帳簿に残っていなければ、基礎は1,500万円です。同じ千分の10を掛けると15万円になり、差は5万円です。

期末の一括評価金銭債権が2,000万円のまま残っている場合と、期末より前に500万円を譲渡して1,500万円になった場合で、法定繰入率千分の10を掛けた繰入限度額が20万円と15万円に分かれることを並べた計算例
図3:率は同じで、掛ける金額だけが動く(仮定の計算例)率と算式は国税庁「No.5501」、金銭債権の範囲は「No.5500」によります(2026年10月29日確認)。2,000万円・500万円・1,500万円は計算の順序を示すために置いた仮定の金額です。実績繰入率で計算する場合は率も変わります。

ただし、この引き算のとおりに必ず動くわけではありません。譲渡代金が期末時点で未入金なら、売掛金の代わりに別の権利が帳簿に残ります。繰入限度額を使えるかどうかも、法人の区分と選択によって変わります。減るか減らないかを決められるのは、自社の帳簿と区分を見た税理士だけです。貸借対照表の上で売掛金と現預金がどう動くかは貸借対照表への影響にまとめています。

売掛先が倒産したとき、貸倒損失を計上するのは誰か

引当金とあわせて確認しておきたいのが、実際に支払われなかったときの扱いです。国税庁は、貸倒損失として損金の額に算入できる場合として3つを挙げています。会社更生法や民事再生法などの法令に基づく手続や債権者集会の協議決定によって金銭債権が切り捨てられた場合、債務者の資産状況などから金銭債権の全額が回収できないことが明らかになった場合、そして継続的な取引を行っていた債務者との取引停止から1年以上経過しても弁済がない場合などです。

3つはいずれも自社が持っている金銭債権についての話です。買戻しや償還請求の定めがなく、譲渡によって自社の債権でなくなっていれば、売掛先が支払えなくなったことの影響はこの場面には現れません。回収できない結果を引き受けるのが誰なのかは、契約の型で決まります。仕組みの側は償還請求権なし(ノンリコース)と売掛先が倒産した場合で扱っています。

期末時点の状態 売掛先が支払えなくなったとき 自社の帳簿から見た論点
買戻し・償還請求の定めがなく、譲渡が済んでいる 回収できない結果を引き受けるのは債権を持っている側 自社の金銭債権ではないため、国税庁が示す貸倒損失の3つの場面には当たらない
売主が買い戻す、または売主自身の資金で支払う定めがある 負担が売主側へ戻る形になっている 金融庁は貸金業に該当するおそれがあるとしている。売買としての整理そのものを確認する
譲渡は済んでいるが、譲渡代金が未入金のまま期末を越えた 売掛先とは別に、譲渡先に対する権利が残っている その権利が一括評価金銭債権に当たるかは、益金の額に算入されたものという条件で判断する

期末の前後に使うときに、自社で確認できること

税務の当てはめは税理士の領域ですが、材料をそろえるところまでは自社でできます。次の5点は、帳簿と契約書だけで確認できるものです。

  1. 譲渡の効力が生じた日が、期末日の前か後か。契約書の日付と、通知や登記の日付をそろえて並べる
  2. 決算整理を終えた帳簿で、その売掛金が残高として残っているかどうか
  3. 譲渡代金のうち、期末時点で入金されていない金額があるか。あるなら、どの勘定で残しているか
  4. 契約書に、買戻しの定めや償還請求に関する条項があるか。ある場合は条項の文言そのものを控える
  5. 自社が貸倒引当金を繰り入れられる区分に当たるか。法人なら資本金の額等と支配関係、個人なら青色申告かどうか

この5点を持っていけば、繰入限度額の計算も貸倒損失の判定も、税理士の側で当てはめができる状態になります。記帳そのものの手順はファクタリングの仕訳にまとめています。契約の型や償還請求権の有無は会社ごとに公表内容が違うため、ファクタリング会社の比較で条件を確かめてから申込みに進んでください。

よくある質問

期末の直前にファクタリングを使うと、貸倒引当金は必ず減りますか

必ず減るとは言えません。繰入限度額の基礎になるのは期末に残っている金銭債権の帳簿価額なので、譲渡した売掛金が帳簿から出ていれば基礎は小さくなります。ただし譲渡代金が未入金のまま期末を越えた場合は別の権利が残り、その扱いは条件に照らした判断になります。自社が繰入れのできる区分に当たるかという前提もあります。

譲渡した売掛金について、自社で貸倒損失を計上できますか

国税庁が挙げている3つの場面は、いずれも自社が持っている金銭債権についてのものです。買戻しや償還請求の定めがなく譲渡が済んでいれば、その債権は自社のものではありません。買戻しの定めがある場合は前提そのものが変わり、金融庁は貸金業に該当するおそれがあると示しています。いずれにしても計上の可否は税理士へ確認してください。

手数料の扱いと貸倒引当金は、別に考えるのですか

別の論点です。額面と入金額の差額をどの区分の費用として扱い、いつの事業年度や年分に入れるのかはファクタリング手数料は損金になる?で扱っています。この記事で見たのは、譲渡したあとに帳簿へ残る金銭債権の側です。期末の集計ではこの2つが同時に動くため、分けて確認したほうが間違いが減ります。

この記事の出典

手数料・条件・手続きは、下の一次情報で確認できた表記だけを載せています。 確認日以降に変更されている場合があるため、申込みの前に各社の公式ページで確かめてください。