決算書への影響

ファクタリングは決算書の注記に書くのか|個別注記表の22区分を条文で確認

売掛債権を譲渡しても、個別注記表に「ファクタリング」という区分は増えません。会社計算規則が定める22の注記区分のうち関係しうるのは3つで、そのうち2つは会計監査人のいない非公開会社では表示を要しません。条文と号番号で確認します。

売掛債権をファクタリング会社へ譲渡しても、個別注記表に「ファクタリング」という項目が増えるわけではありません。会社計算規則は注記表を22の区分に分けて表示することを定めていますが、その区分名に取引の呼び名は出てきません。売掛債権の譲渡が関係しうるのは、第二号の「重要な会計方針に係る事項に関する注記」、第七号の「貸借対照表等に関する注記」、第十二号の「金融商品に関する注記」の3つです。

さらに、この3つがいつも必要になるわけでもありません。会社計算規則は会社の区分ごとに、表示することを要しない項目を定めています。会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く)の個別注記表では、第七号と第十二号はそもそも表示を要しません。中小企業の多くはこの区分に入るため、法令の上で残るのは重要な会計方針の側だけという形になります。

この記事では、注記表が計算書類の中でどの位置にあるのかを確認したうえで、22の区分、会社の区分ごとに表示を要しない項目、関係しうる3区分で何を書くことになるのかを、条文で確認できる範囲だけで整理します。損益計算書とキャッシュ・フロー計算書のどこに何が出るのかはファクタリングは損益計算書のどこに出る?、貸借対照表の科目の動き方はファクタリングと貸借対照表で別に扱っています。自社の取引で何を注記すべきかという個別の判断は会計・税務の領域にあたるため、当サイトでは行いません。

注記表は決算書の付け足しではなく、計算書類の1つ

会社法第435条第2項は、株式会社が各事業年度に係る計算書類を作成しなければならないと定めています。条文は計算書類を「貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるもの」としており、その法務省令で定めるものが何かは会社計算規則第59条第1項にあります。そこには「株主資本等変動計算書及び個別注記表」と書かれています。

つまり、各事業年度に係る計算書類は4つです。貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、そして個別注記表です。注記表は本表の下に添える覚え書きではなく、本表と同じ資格を持つ書類として並んでいます。「決算書にどう出るのか」という問いには、本表の数字としてどう出るのかという面と、注記として何を書くのかという面の2段があることになります。

各事業年度に係る計算書類が貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表の4つであることと、個別注記表が会社計算規則第98条第1項の22区分に分かれ、売掛債権の譲渡に関係しうるのは第二号・第七号・第十二号であることを示した構造図
図1:注記表は計算書類の1つで、その中が22の区分に分かれている計算書類の範囲はe-Gov法令検索「会社法」第435条第2項と「会社計算規則」第59条第1項、区分の名称は同規則第98条第1項(いずれも2026年10月28日確認)によります。区分名は図の中で短く表記しています。

なお、各事業年度に係る計算書類は会計帳簿に基づいて作成しなければならないとされています(会社計算規則第59条第3項)。注記も同じ帳簿から導かれるもので、帳簿にない事実を注記で作ることはできません。譲渡の事実と差し引かれた金額が帳簿に記録されていることが出発点になります。仕訳としてどう記録するかはファクタリングの仕訳で扱っています。

会社計算規則が定める22の区分に、「ファクタリング」は無い

会社計算規則第98条第1項は、注記表を区分して表示しなければならないとしています。号は第一号から第十九号まで並び、途中に第四号の二、第十八号の二、第十八号の三が入るため、区分の数は全部で22です。名前を並べると、取引の呼び名で分類されているわけではないことがはっきりします。

号 区分 売掛債権の譲渡との関係
一 継続企業の前提に関する注記 譲渡そのものを書く区分ではない
二 重要な会計方針に係る事項に関する注記 関係しうる。費用の計上基準や作成の基本となる重要な事項として
三 会計方針の変更に関する注記 処理の方法を前期から変えた年度なら対象になりうる
四 表示方法の変更に関する注記 表示する区分を変えた年度なら対象になりうる
四の二 会計上の見積りに関する注記 譲渡そのものを書く区分ではない
五 会計上の見積りの変更に関する注記 譲渡そのものを書く区分ではない
六 誤謬の訂正に関する注記 過年度の誤りを訂正した場合に限る
七 貸借対照表等に関する注記 関係しうる。担保提供や保証債務等がある場合
八 損益計算書に関する注記 譲渡そのものを書く区分ではない。会社の区分により表示を要しない
九 株主資本等変動計算書に関する注記 譲渡そのものを書く区分ではない
十 税効果会計に関する注記 譲渡そのものを書く区分ではない
十一 リースに関する注記 対象外
十二 金融商品に関する注記 関係しうる。売掛金と現金及び預金はいずれも金融商品
十三 賃貸等不動産に関する注記 対象外
十四 持分法損益等に関する注記 対象外
十五 関連当事者との取引に関する注記 譲渡の相手が関連当事者にあたる場合に限る
十六 一株当たり情報に関する注記 対象外
十七 重要な後発事象に関する注記 決算日後に生じた重要な事象にあたる場合に限る
十八 連結配当規制適用会社に関する注記 対象外
十八の二 収益認識に関する注記 債権の譲渡は収益の認識ではない
十八の三 国際最低課税額に対する法人税等に関する注記 対象外
十九 その他の注記 上の区分に収まらない重要な事項がある場合

区分が処理の内容で決まっているということは、同じ「ファクタリングを使った」という事実でも、契約の中身と帳簿の処理によって書く場所が変わるということです。逆に言えば、取引の名前だけを決めても、何を注記するかは決まりません。

e-Gov法令検索で表示した「会社計算規則」(平成十八年法務省令第十三号)の条文ページ。法令名と法令番号、条文の掲載箇所が表示されている
この記事が根拠にしている条文(引用)e-Gov法令検索「会社計算規則」の冒頭を引用しています(2026年10月28日取得)。注記表の区分は第98条、重要な会計方針は第101条、貸借対照表等に関する注記は第103条、金融商品に関する注記は第109条にあります。e-Gov法令検索はデジタル庁が運営しています。

会社の区分によって、表示を要しない注記が変わる

第98条第2項は、「次の各号に掲げる注記表には、当該各号に定める項目を表示することを要しない」として、会社の区分ごとに省ける項目を号番号で指定しています。条文の指定をそのまま書き出すと次のとおりです。

注記表の種類 表示することを要しない項目
会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く)の個別注記表 第一号、第四号の二、第五号、第七号、第八号及び第十号から第十八号まで
会計監査人設置会社以外の公開会社の個別注記表 第一号、第四号の二、第五号、第十四号及び第十八号
会計監査人設置会社であって、法第444条第3項に規定するもの以外の株式会社の個別注記表 第十四号
連結注記表 第八号、第十号、第十四号、第十五号及び第十八号
持分会社の個別注記表 第一号、第四号の二、第五号及び第七号から第十八号まで

1行目に注目してください。会計監査人を置いていない非公開の株式会社では、第七号(貸借対照表等に関する注記)と、第十号から第十八号までに含まれる第十二号(金融商品に関する注記)が、どちらも表示を要しない項目に入っています。先に挙げた「関係しうる3区分」のうち2つが、法令の上では最初から外れます。

会社計算規則第98条第2項にもとづき、会計監査人設置会社以外の非公開株式会社・会計監査人設置会社以外の公開会社・会計監査人設置会社・持分会社の4区分について、重要な会計方針と貸借対照表等に関する注記と金融商品に関する注記の表示が必要かどうかを並べたマトリクス
図2:同じ3区分でも、必要かどうかは会社の区分で分かれる号番号はe-Gov法令検索「会社計算規則」第98条第2項(2026年10月28日確認)の各号の指定によります。表の1行目にあたる会社では、第七号と第十二号が表示を要しない項目に含まれます。

ここで誤解しやすいのは、「要しない」の意味です。条文は表示を求めていないと言っているだけで、書いてはいけないと言っているわけではありません。金融機関や取引先へ決算書を示す場面を考えて、法令が求める範囲より広く注記する会社もあります。どこまで書くかは会社の判断になり、その判断は会計の領域です。

関係しうる区分その1:重要な会計方針に係る事項に関する注記(第二号)

第二号の中身は第101条にあります。重要な会計方針に係る事項に関する注記は、会計方針に関する次の事項(重要性の乏しいものを除く)とされています。資産の評価基準及び評価方法、固定資産の減価償却の方法、引当金の計上基準、収益及び費用の計上基準、その他計算書類の作成のための基本となる重要な事項の5つです。

売掛債権の譲渡で問題になりうるのは、このうち4番目と5番目です。額面と実際に受け取った金額との差額を当期の費用として処理するとき、その費用をどの区分に置くかという方針が、費用の計上基準や作成の基本となる重要な事項にあたるかどうかを考えることになります。損益計算書の区分によって営業利益の金額が変わる点はファクタリングは損益計算書のどこに出る?で条文から整理しました。注記の側で問われるのは、その置き方を読む側に伝えるかどうかです。

条文には「重要性の乏しいものを除く」という留保が付いています。したがって、譲渡の金額が小さく、継続的に行っているものでもない場合に必ず書くことになるとは、条文からは言えません。逆に、毎期くり返していて金額も大きければ、読む側の理解に関わる事項になりえます。この重要性の判断は会計の領域にあたるため、当サイトでは線引きをしません。金額と頻度を書き出して、税理士・会計士へ確認してください。

関係しうる区分その2:貸借対照表等に関する注記(第七号)

第七号の中身は第103条で、九つの号が並びます。売掛債権の譲渡に関わるのは第一号と第五号です。第一号は資産が担保に供されている場合に、その事実、資産の内容及び金額、担保に係る債務の金額を書くというものです。第五号は「保証債務、手形遡求債務、重要な係争事件に係る損害賠償義務その他これらに準ずる債務(負債の部に計上したものを除く。)があるときは、当該債務の内容及び金額」と定めています。

第五号は手形遡求債務を名指しで挙げています。手形割引では、振出人が支払わなかったときに手形を買い戻す義務が残るため、負債の部に計上していない分についてこの号の対象になりえます。一方、売掛先が支払わなかったときに売主が支払義務を負わない契約であれば、保証債務も遡求債務も生じません。この号で書く対象そのものが出てこないことになります。償還請求権の有無による違いはノンリコース(償還請求権なし)で、手形割引との違いの全体像はファクタリングと手形割引の違いで扱っています。

問題になるのは、買戻しや償還請求権が付いている契約です。売主が最後に負担するのであれば、第五号の「その他これらに準ずる債務」に当たりうる形になります。ただし、その前に確認すべきことがあります。金融庁は、売主が債権を買い戻すこととされている場合や、売主自身の資金によりファクタリング業者に支払をしなければならないこととされている場合は、貸金業に該当するおそれがあるとしています。注記の書き方を整える前に、契約そのものが何なのかという段が残っているということです。

手形割引では手形遡求債務が条文に明記され、償還請求権のないファクタリングでは第103条第5号で書く対象が生じず、買戻し特約や償還請求権がある契約は「これらに準ずる債務」に当たりうる一方で貸金業に該当するおそれが指摘されていることを並べた3者比較
図3:第103条第5号に書く対象が生じるかは、支払われなかったときの負担で決まる条文はe-Gov法令検索「会社計算規則」第103条第5号、貸金業への該当は金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」(いずれも2026年10月28日確認)によります。どの処理にあたるかという個別の判定は当サイトでは行いません。

第一号の担保についても、取り違えに気をつけてください。売掛債権を担保に差し入れて資金を借りる取引は、資産が担保に供されている状態です。債権を売る取引は、所有者が変わるのであって担保に供するのではありません。契約書の表題が似ていても、どちらなのかで書く注記が変わります。契約書の受け取りと条項の確認は契約書をもらえない場合で扱っています。

関係しうる区分その3:金融商品に関する注記(第十二号)

第十二号の中身は第109条です。金融商品に関する注記は、重要性の乏しいものを除いて、金融商品の状況に関する事項、金融商品(リース負債を除く)の時価等に関する事項、金融商品(リース負債、リース債権及びリース投資資産を除く)の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項の3つとされています。3つめは、法第444条第3項に規定する株式会社以外の株式会社では省略することができるとされています。

売掛金も現金及び預金も金融商品にあたるため、譲渡はこの区分と無関係ではありません。ただし、ここで求められているのは個々の取引の説明ではなく、金融商品の状況や時価等という会社全体についての事項です。第109条第2項は、連結注記表を作成する株式会社は個別注記表における注記を要しないとしています。

そして前の節で見たとおり、会計監査人を置いていない非公開の株式会社では、第十二号は表示を要しない項目に入ります。「ファクタリングを使ったから金融商品の注記を書かなければならない」という形には、条文からはなりません。

外から見えるのは貸借対照表で、注記表は公告されない

注記表に書いたことが、どこまで外部の目に触れるのかも押さえておきます。会社法第440条第1項は、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならないと定めています。公告の対象として注記表は挙げられていません。

一方で、計算書類等は本店に備え置かれます。会社法第442条第1項は、各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書を、定時株主総会の日の1週間(取締役会設置会社では2週間)前の日から5年間、本店に備え置かなければならないとしています。同条第3項は、株主及び債権者が営業時間内はいつでも、閲覧や謄本・抄本の交付などを請求できるとしています。

誰が見るか 見られる範囲 根拠
不特定多数(公告) 貸借対照表。大会社は貸借対照表及び損益計算書 会社法第440条第1項
株主・債権者 計算書類等(個別注記表を含む)の閲覧・謄本等の請求 会社法第442条第1項・第3項
計算書類の提出を求めた相手 提出した計算書類の範囲。注記表は計算書類の1つ 会社法第435条第2項、会社計算規則第59条第1項

3行目は条文から導けることだけを書いています。注記表は計算書類の1つなので、計算書類をひとそろい渡せば注記表も含まれます。誰にどこまで渡すかは会社が決めることで、当サイトでは「この場面では必ず見られる」といった一般化はしません。

個人事業主の決算書に、注記表という書類はない

ここまでは会社の話です。注記表は会社法と会社計算規則が会社に求めている書類なので、個人事業主の確定申告には出てきません。国税庁のタックスアンサー「No.2070 青色申告制度」は、青色申告特別控除について、正規の簿記の原則による記帳に基づいて作成した貸借対照表および損益計算書を確定申告書に添付して提出する必要があるとしています。添付するものとして挙げられているのは、この2つです。注記表という書類は挙げられていません。

したがって、個人事業主が確認すべきなのは注記ではなく、損益計算書と貸借対照表に出る数字の側です。差し引かれた金額をどの科目で処理したか、手数料以外の費用が含まれていなかったかを見ます。差し引かれる項目の内訳は手数料以外にかかる費用に、個人事業主が利用する場合の条件は個人事業主のファクタリングにまとめています。

決算の前に確認する順番

条文で決まっている部分と、会社の判断になる部分が混ざっています。次の順で分けて考えると、どこから税理士へ相談すべきかが決まります。

  1. 自社がどの区分にあたるかを確認する。会計監査人を置いているか、公開会社かどうか、持分会社かどうかで、表示を要する注記が変わります(第98条第2項)
  2. 契約書で買戻しの定めと償還請求権の有無を確認する。売買として処理できるかどうかで、本表の数字から変わります。企業会計基準委員会の企業会計基準第10号は、金融資産の消滅を認識できる場合の要件を定めています
  3. 差し引かれた金額をどの費用区分に計上したかを書き出す。重要な会計方針として書くかどうかの材料になります(第101条)
  4. 担保に供した資産や、保証債務にあたるものがないかを確認する(第103条第1号・第5号)
  5. 2から4を金額と頻度とあわせて並べ、重要性の判断を税理士・会計士へ確認する

1だけは条文を読めば決まります。2から5は、契約書と帳簿を見ないと決まりません。当サイトは個別の税務・会計判断を行わないため、ここから先は資料を持って専門家へ相談してください。

本表と注記は、別々に確認する

注記の話は、本表の数字が決まったあとに来るものではありません。買戻しの定めがあって売買として処理できない場合、売掛金は資産の部に残り、注記で補う話にもなりません。本表の側から順に確認するのが早道です。

貸借対照表のどの科目がどう動くのかはファクタリングと貸借対照表、損益計算書とキャッシュ・フロー計算書の区分はファクタリングは損益計算書のどこに出る?で扱っています。会計と税金のほかの論点は会計・税金のカテゴリにまとめています。各社が公表している条件を比べるときはファクタリング会社の比較に、出典と確認日つきで並べています。

この記事の出典

手数料・条件・手続きは、下の一次情報で確認できた表記だけを載せています。 確認日以降に変更されている場合があるため、申込みの前に各社の公式ページで確かめてください。