売掛債権をファクタリング会社へ譲渡しても、損益計算書の売上高は増えません。増えるのは費用のほうです。額面と実際に受け取った金額との差額が、譲渡した期の費用として出ます。
決算書を見る側から見ると、問題になるのはその費用をどの区分に置いたかです。会社計算規則は損益計算書等を7つの区分に分けることを定めていますが、譲渡差額をどの区分へ入れるかまでは指定していません。置き方によって営業利益の金額が変わり、経常利益は変わらないという、少し分かりにくい動き方をします。
この記事では、損益計算書のどこに何が出るのか、キャッシュ・フロー計算書ではどの区分に入るのかを、会社計算規則の条文と企業会計審議会の作成基準で確認できる範囲だけで整理します。貸借対照表の科目がどう入れ替わるかはファクタリングと貸借対照表で別に扱っています。自社の取引をどう処理するかという個別の判断は税務・会計の領域にあたるため、当サイトでは行いません。
決算書は1枚ではない。表ごとに出る場所が違う
「決算書にどう出るのか」という問いは、実際には複数の表への問いに分かれます。動く場所と、動かない場所を先に押さえておくと、後の話が追いやすくなります。
| 決算書 | 何が動くか | 動かないもの |
|---|---|---|
| 貸借対照表 | 売掛金が減り、現金及び預金が増える。差額の分だけ総資産と純資産が減る | 借入金などの負債の区分。ただし消滅の認識要件を満たす場合に限る |
| 損益計算書 | 額面と受取額との差額が費用として出る。置いた区分によって営業利益が変わる | 売上高。債権が生じた時点ですでに計上されているため増えない |
| キャッシュ・フロー計算書 | 営業活動によるキャッシュ・フローの区分の中で、受け取った金額が反映される | 財務活動によるキャッシュ・フローの区分 |
このうち、キャッシュ・フロー計算書は作っていない会社もあります。会社計算規則第59条第1項は、会社法第435条第2項に規定する法務省令で定めるものを「株主資本等変動計算書及び個別注記表」としています。各事業年度に係る計算書類として求められるのは、貸借対照表と損益計算書に、この2つを加えたものです。キャッシュ・フロー計算書はここに含まれていません。
それでも、資金の動きを自分で把握するために作っている会社はあります。作っている場合は、後述する区分の考え方がそのまま当てはまります。
損益計算書に「売上高」は増えない
最初に押さえておきたいのが、売上高は増えないという点です。ここを取り違えると、決算書の読み方が全部ずれます。
売掛金は、商品やサービスを提供して売上を計上したときに生じた債権です。その債権を誰かに譲渡しても、新しく何かを売ったわけではありません。すでに計上した売上の代金を、期日より前に受け取っているだけです。したがって、譲渡した金額が売上高として二重に載ることはありません。
では差額はどこへ行くのか。企業会計基準委員会が公開している企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」は第11項で、金融資産の消滅を認識した場合に「当該金融資産又は金融負債の消滅を認識するとともに、帳簿価額とその対価としての受払額との差額を当期の損益として処理する」と定めています。帳簿価額(額面)と受け取った金額との差が、譲渡した期の損益に出るという意味です。
つまり、損益計算書に現れるのは費用の側だけです。売上高も、売上総利益も、この取引では動きません。動き始めるのは、そこから費用を引いていく段階からです。
譲渡差額をどの区分に置くかで、営業利益だけが変わる
会社計算規則第88条第1項は、損益計算書等を「売上高」「売上原価」「販売費及び一般管理費」「営業外収益」「営業外費用」「特別利益」「特別損失」の区分に分けて表示することを定めています。そして同規則第90条第1項は、売上総損益金額から販売費及び一般管理費の合計額を減じて得た額を営業利益金額として表示すると定め、第91条第1項は、営業損益金額に営業外収益を加えて得た額から営業外費用を減じて得た額を経常利益金額として表示すると定めています。
ここまでを組み合わせると、譲渡差額を販売費及び一般管理費に含めた場合と、営業外費用に含めた場合とで、営業利益の金額が変わることが分かります。一方で、経常利益は営業外費用を引いたあとの金額なので、どちらに置いても同じになります。
営業利益は、本業でどれだけ稼いだかを示す数字として読まれます。資金の前倒しにかかった費用を販売費及び一般管理費へ入れると、その分だけ本業の利益が小さく見えます。営業外費用へ入れれば、本業の利益は変わらず、経常利益の段階で差が出ます。
どちらが正しいと当サイトが言うことはできません。会社計算規則は区分の枠組みを定めているだけで、この費用をどの区分に置くかを個別に指定していないからです。同規則第88条第7項が定めているのは「損益計算書等の各項目は、当該項目に係る収益若しくは費用又は利益若しくは損失を示す適当な名称を付さなければならない」ということまでで、使うべき科目名そのものは法令に列挙されていません。自社でどう扱うかは、継続して同じ方法を採ることも含めて、税理士・会計士へ確認してください。
決算書に「ファクタリング手数料」という科目名が並ぶとは限らない
いま見たとおり、法令が「ファクタリング手数料」という科目名を定めているわけではありません。そのため、決算書の表面にその言葉が出るとは限らず、決算書だけを見て取引の有無や金額を判定しようとすると見落としが起きます。確認する場所を先に決めておくほうが早いです。
| 見たいこと | 損益計算書だけでは分からない理由 | 確認する場所 |
|---|---|---|
| 譲渡差額がいくら出たか | 他の費用と合算した科目に含まれていることがある | 総勘定元帳の該当科目、譲渡ごとの計算書 |
| どの区分に置いたか | 科目名からは営業内・営業外の別が読み取れない場合がある | 損益計算書の区分と、勘定科目内訳明細書 |
| 手数料以外の費用がいくらか | 登記費用や振込手数料は別の科目に入ることがある | 譲渡ごとの見積書・精算書、支払明細 |
| 期末時点で債権が残っているか | 損益計算書には残高が出ない | 貸借対照表の売掛金、契約書の買戻し条項 |
手数料以外にどのような費用が発生しうるかはファクタリングの手数料とはと手数料以外にかかる費用で整理しています。債権譲渡登記を行った場合の登録免許税は債権譲渡登記の費用はいくら?で法令の条文から確認しています。
キャッシュ・フロー計算書では「営業活動」の区分に入る
キャッシュ・フロー計算書を作っている場合、次に問題になるのは3つの区分のどこへ入れるかです。企業会計審議会が公表した「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」は、第二の二で「営業活動によるキャッシュ・フロー」「投資活動によるキャッシュ・フロー」及び「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分を設けなければならないと定めています。
同基準は、営業活動によるキャッシュ・フローの区分には「営業損益計算の対象となった取引のほか、投資活動及び財務活動以外の取引によるキャッシュ・フロー」を記載するとしています。これに対して財務活動によるキャッシュ・フローの区分には「資金の調達及び返済によるキャッシュ・フロー」を記載します。
売掛債権の譲渡は、営業活動から生じた債権を期日前に資金化する取引であって、資金を調達して返済する取引ではありません。したがって、入ってくるのは営業活動の区分です。同じ金額を借入で用意した場合は財務活動の区分に出るので、表の見え方がはっきり分かれます。
負債が増えるかどうかという論点だけを取り出した比較は、ファクタリングは負債になる?でも扱っています。
直接法と間接法で、見え方が変わる
同じ作成基準の第三は、営業活動によるキャッシュ・フローの表示方法として2つを示しています。主要な取引ごとにキャッシュ・フローを総額表示する直接法と、税金等調整前当期純利益に非資金損益項目、営業活動に係る資産及び負債の増減などを加減して表示する間接法です。基準は継続適用を条件に、これらの方法の選択適用を認めています。
読者にとって大事なのは、どちらを選ぶかによって譲渡したことが表面に出るかどうかが変わるという点です。
間接法の場合、譲渡差額はすでに税金等調整前当期純利益の中で費用になっています。そこへ、営業活動に係る資産の増減として売上債権の減少額が加算されます。譲渡して売掛金が減った分だけ加算されるので、結果として営業活動によるキャッシュ・フローには受け取った金額が反映されます。ただし、通常の回収で減った分と譲渡で減った分は同じ行にまとまるため、行の名前だけを追っても区別できません。
直接法の場合は、主要な取引ごとに総額を表示するため、区分の中でどのような入金があったかを示す形になります。どちらの方法でも営業活動によるキャッシュ・フローの合計額は同じですが、途中の行の見え方は変わります。決算書を渡す相手に取引の内容を説明したい場合は、計算書の行だけに頼らず、譲渡ごとの記録を別に用意しておくほうが確実です。
入金の前倒しは、あとで入るはずだった資金を先に受け取ること
損益計算書とキャッシュ・フロー計算書を並べて読むと、単月では見えないことが見えてきます。前倒しで資金化するということは、本来の入金日に入るはずだった資金を先に受け取るということです。その分、本来の入金日には資金が入りません。
同じ債権を毎月のように前倒しし続けると、毎月の入金額は一定になります。資金繰り表の上では安定して見えることさえあります。しかし損益計算書には、譲渡のたびに差額が費用として積み上がっていきます。決算期をまたぐと、その積み上がりが利益の減少という形で決算書に出ます。
期をまたぐ場面で注意したいのが、決算日の直前と直後です。差額は譲渡した期の損益になるため、決算日の直前に譲渡すればその期の利益が減り、直後にずらせば翌期の損益になります。決算書の見え方を目的に譲渡の時期を動かすと、資金が必要な時期と譲渡の時期がずれ、資金繰りの側で無理が出ます。
法人税の計算では、会計の処理が出発点になる
決算書と法人税の申告はつながっています。法人税法第22条第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額を「当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額」と定めています。同条第3項は、損金の額に算入すべき金額を「別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする」として列挙しています。
ここで重要なのが第4項です。第2項に規定する収益の額および第3項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする」と定めています。つまり、会計上どう処理したかが税務計算の出発点になります。
そのため、譲渡差額をどう記録するかという判断は、決算書の見え方だけの問題では終わりません。ただし、当てはめは会社ごとの事情によって変わるため、当サイトでは個別の判断を行いません。手数料に消費税がかかるかどうかはファクタリングの手数料に消費税はかかる?で、課税売上割合への影響はファクタリングと課税売上割合で、それぞれ国税庁の資料から確認しています。
決算書の見え方を先に決めない
営業利益を大きく見せたい、負債を増やしたくないといった動機から契約を選ぶと、判断の順番が逆になります。決算書にどう出るかは結果であって、目的にするものではありません。
金融庁は、ファクタリングを装った高金利の貸付けについて注意喚起を出しています。売主が債権を買い戻すこととされている場合や、売主自身の資金によりファクタリング業者に支払をしなければならないこととされている場合は、貸金業に該当するおそれがあるとしています。契約書にノンリコースの規定があるかといった形式的な要素だけでなく、経済的側面や実態に照らして判断されるとも述べています。
買戻しの定めが実質的に残っている契約では、企業会計基準第10号の消滅の認識要件を満たさない可能性があります。その場合、売掛金は資産に残ったままになり、この記事で説明した損益計算書とキャッシュ・フロー計算書の動き方も前提が変わります。要件の中身と契約書の読み方はファクタリングと貸借対照表で扱っています。
月次で記録しておくと、決算のときに迷わない
決算になってから譲渡の記録を集め直すと、どの費用がどの契約から出たものかが分からなくなります。譲渡のたびに次の項目を1行ずつ残しておくと、区分の判断も、税理士への説明も早く済みます。
- 譲渡した日と、対象の売掛先・請求書番号
- 額面(帳簿価額)と、実際に入金された金額
- その差額の内訳。手数料、事務手数料、振込手数料、登記関係の費用を分けて記録します
- 本来の入金予定日。前倒しした月数が分かるようにしておきます
- 契約の型(2社間か3社間か)と、買戻し・償還請求に関する条項の有無
差額の内訳を分けておく理由は、項目によって置くべき区分の判断が変わりうるためです。合算した1つの金額しか残っていないと、あとから分けられません。前倒しした月数を残しておく理由は、同じ債権を繰り返し前倒ししている状態に気づくためです。
各社が公表している手数料の範囲や契約の型はファクタリング会社の比較に、出典と確認日を添えて並べています。会計と税金に関するほかの論点は会計・税金のカテゴリで扱います。
この記事の出典
手数料・条件・手続きは、下の一次情報で確認できた表記だけを載せています。 確認日以降に変更されている場合があるため、申込みの前に各社の公式ページで確かめてください。
- e-Gov法令検索「会社計算規則」 公的機関 / 確認日 2026年9月4日
- 金融庁 企業会計審議会「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」 金融庁 / 確認日 2026年9月4日
- 企業会計基準委員会「企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準」 業界団体 / 確認日 2026年9月4日
- e-Gov法令検索「法人税法」 公的機関 / 確認日 2026年9月4日
- 金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」 金融庁 / 確認日 2026年9月4日