ファクタリングの仕訳

個人事業主のファクタリングの仕訳|法人との違いと、記帳方式で変わる帳簿

個人事業主でも、売上を立て直さず差額を費用にする骨格は法人と同じです。変わるのは帳簿の形と入金口座の扱いで、記帳の方式ごとに備える帳簿と青色申告特別控除の額が分かれます。国税庁の公表資料で確認できる範囲だけで、個人事業主に固有の4点を整理します。

個人事業主がファクタリングを使ったときの記帳も、骨格は法人と変わりません。売掛債権を売っても売上を立て直さず、額面と実際に入金された金額の差が費用になります。違いが出るのは、その記録をどの帳簿に、どの口座の動きとして残すかという部分です。帳簿の形は記帳の方式で変わり、入金先が事業用の口座か生活用の口座かで仕訳が1行増えます。

先に1つ切り離しておきます。この記事で扱うのは、事業で生じた売掛債権を譲渡した場合です。個人が勤務先に対して持つ賃金債権の買取り、いわゆる給与ファクタリングは、金融庁が貸金業に該当すると示している別の取引で、当サイトは利用を案内していません。両者の違いは給与ファクタリングとファクタリングの違いで扱っています。

借方と貸方の並べ方そのものはファクタリングの仕訳にまとめてあります。この記事では、そこから個人事業主で変わる4点だけを順に見ます。差額の根拠になる決まり、記帳の方式ごとに備える帳簿、入金口座で増える1行、そして消費税の立場による作業の違いです。根拠は国税庁のタックスアンサーと金融庁の公表資料に限り、自分の取引をどう処理するかという個別の判断は行いません。

骨格は同じで、変わるのは根拠になる決まりの側

金融庁は、ファクタリングを「事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス(事業者の資金調達の一手段)」であり、「法的には債権の売買(債権譲渡)契約」だと説明しています。売る対象は、売上を計上したときにすでに生じている債権です。ですから譲渡の時点で売上を立て直す必要はなく、記録するのは売掛金の行き先と、額面との差額だけになります。ここは法人でも個人事業主でも同じです。

変わるのは、その差額を何にもとづいて費用とするかです。法人では会計基準にそって当期の損益として処理します。個人事業主が確定申告で使うのは、必要経費という枠です。国税庁のタックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」は、必要経費に算入できる金額として「総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額」と「その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額」を挙げています。ページには「令和8年4月1日現在法令等」の表示があり、2026年10月29日に確認しました。

国税庁タックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」のページ冒頭。必要経費に算入できる金額と、その年において債務の確定した金額であることが示されている
必要経費の範囲が示されている一次情報(引用)国税庁「No.2210 必要経費の知識」の冒頭を引用しています(2026年9月4日取得。内容は2026年10月29日に再確認)。個人事業主の場合、差額はこの枠で考えることになります。ページの内容と表示の権利は国税庁に帰属します。

同じページには、必要経費となるのが「その年において債務の確定した金額」であることも書かれています。どの年分の必要経費になるかという判定はファクタリング手数料は損金になる?で条文の側から扱っているので、この記事では帳簿に何を残すかという側だけを見ます。

もう1つの違いは、帳簿そのものに決まりがあることです。国税庁「No.2080 白色申告者の記帳・帳簿等保存制度」は、記帳が必要な人を「不動産所得、事業所得または山林所得のある方」とし、「売上げなどの収入金額、仕入れや経費に関する事項について、取引の年月日、売上先・仕入先その他の相手方の名称、金額、日々の売上げ・仕入れ・経費の金額等を帳簿に記載」することを求めています。青色申告をしていなくても、譲渡と入金を帳簿に残す作業は省けません。

ファクタリングの記帳について、法人と個人事業主で同じところ4点(売上を立て直さない、差額が費用になる、場面の数は契約の型で決まる、買戻しの定めがあれば前提が変わる)と、個人事業主で変わるところ4点(必要経費として扱う、帳簿の形が記帳の方式で変わる、入金口座が生活用なら1行増える、消費税は免税か課税かで作業が違う)を左右に並べた比較図
図1:同じところ4点と、個人事業主で変わるところ4点債権の売買契約であることと買戻しに関する記載は金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」、必要経費の範囲は国税庁「No.2210 必要経費の知識」によります(いずれも2026年10月29日確認)。

左側の4点は法人向けの記事で扱っています。この記事は右側の4点だけを見ていきます。

記帳の方式で、備える帳簿と控除の額が変わる

ファクタリングのための特別な帳簿はありません。譲渡と入金は、ふだん使っている帳簿の中に記録します。その帳簿の形が、申告と記帳の方式によって変わります。

国税庁「No.2070 青色申告制度」は、青色申告について「現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳のような帳簿を備え付けて簡易な記帳をするだけでもよい」場合があるとしています。保存については「これらの帳簿および書類などは、原則として7年間保存することとされていますが、書類によっては5年間でよい」とされ、5年でよい書類の例として「請求書、見積書、納品書、送り状など」が挙げられています。白色申告では、No.2080が収入金額や必要経費を記載した法定帳簿を7年、任意帳簿や請求書などの書類を5年としています。

控除の側は「No.2072 青色申告特別控除」にあります。55万円の控除の要件には「取引を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳していること」と「貸借対照表、損益計算書および所得の金額の計算に関する明細書を確定申告書に添付し、確定申告期限までに当該申告書を提出すること」が挙げられています。65万円になるのは、この要件に加えて仕訳帳と総勘定元帳の電子帳簿保存を行っているか、確定申告書などを期限までにe-Taxで送信した場合です。これらに該当しない青色申告者の控除は10万円とされています。

白色申告、青色申告の簡易な記帳、青色申告の複式簿記、複式簿記に電子帳簿保存またはe-Taxを加えた場合の4行について、帳簿の形として示されているもの、帳簿・書類の保存期間、青色申告特別控除の額を並べた比較マトリクス
図2:記帳の方式ごとに示されているもの帳簿の形と保存期間は国税庁「No.2070 青色申告制度」と「No.2080 白色申告者の記帳・帳簿等保存制度」、控除の額と要件は「No.2072 青色申告特別控除」によります。いずれも令和8年4月1日現在法令等の表示があるページで、2026年10月29日に確認しました。

ここで効いてくるのが、貸借対照表の添付です。複式簿記で記帳する方式を選んでいる場合、期末の残高が申告書に添付する書類に出ます。譲渡したのに対価がまだ入っていない、あるいは売掛先から回収した資金をまだ送金していないという状態が年末に残ると、その残高が表に出るということです。簡易な記帳の場合は、同じ事実を経費帳や売掛帳の側に残すことになります。

記帳が動く場面 何を記録するか 個人事業主で増える確認
譲渡契約が成立した 売掛先への請求権が、対価を受け取る権利に置き換わったこと 契約書の日付と、買戻し・償還請求に関する条項の有無
対価が入金された 入金された金額と、額面との差額 その入金が事業用の口座か生活用の口座か
売掛先から入金された(2社間) 預かっている資金として受けたこと 家計の資金と混ざっていないか
ファクタリング会社へ送金した(2社間) 預かりが解消したこと どの口座から送金したか
年末をまたいだ 期末に残っている残高 貸借対照表を添付する方式かどうか

この表の右の列が、法人向けの仕訳例には出てこない部分です。左と中央の2列は、契約の型ごとの借方・貸方とあわせてファクタリングの仕訳に整理してあります。

入金口座が事業用か生活用かで、増える1行が決まる

個人事業主で最初につまずくのは、口座の問題です。法人では会社の口座と代表者個人の口座が分かれていますが、個人事業主では事業用の口座と生活用の口座が同じ名義で並び、どちらでも入金を受けられます。

事業用の口座に入金されたなら、事業の帳簿にある預金の科目で受けるだけです。仕訳の並びは法人と同じになります。生活用の口座に入金された場合は、事業の帳簿を通っていない入金を帳簿へ取り込むための行が1つ増えます。実務では事業主借や事業主貸といった科目名が使われますが、当サイトが確認した国税庁の公表資料に、この科目名の定めは見当たりませんでした。科目名そのものより、事業の資金と家計の資金の行き来が帳簿から読めることが要点です。

譲渡の対価がどの口座へ入金されたかで記帳の行数が変わることを、事業用の口座に入金された場合は増える1行がなく、生活用の口座に入金された場合は受け取りの1行が増えると示し、2社間で売掛先からの入金も自分が受け取る場合の注意を下に置いた判断フロー図
図3:記帳を始める前に、通帳で入金先を確かめる契約の型ごとの回収の担い手は金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」(2026年10月29日確認)によります。勘定科目の名称について、当サイトが確認した国税庁の公表資料に定めは見当たりませんでした。図は記録の考え方を示したものです。

2社間では、この問題が二重になります。売掛先からの入金を自分が受け取り、それをファクタリング会社へ送金するところまで作業が続くためです。入ってきた資金は自分の収益ではなく、送金するまで預かっているものです。これを生活用の口座で受け取ると、家計の支出と混ざり、いくら預かっているのかを帳簿から追えなくなります。契約の型そのものの違いは2社間ファクタリングとはで扱っています。

金融庁は、譲渡した債権の回収が売主に委託されていて、売主が集金できなかった場合に売主が債権を買い戻すこととされている場合などについて、貸金業に該当するおそれがあると指摘しています。回収と送金の記録を日付で残しておくと、自分の契約がどちらの形で動いたのかを後から確認できます。記帳の形を決める前に契約書を読む順番にしてください。

年末に残る残高は、3つのどれかに当たる

譲渡から送金までが同じ年のうちに終われば、残高は残りません。年末をまたぐ場合に残るものは、次の3つのどれかです。どれも「何かが途中である」ことを示しているので、金額と日付をそろえて確かめます。

年末に残っている残高 残っている意味 確かめること
対価の入金を待っている残高 譲渡は済んだが、ファクタリング会社からの入金がまだ 契約書と計算書の日付、入金の予定日
預かっている資金の残高 売掛先から回収したが、まだ送金していない 送金の期限と、送金した日の記録
事業と家計の行き来を表す残高 生活用の口座で受け取った、または家計から支払った その口座の入出金明細と、対応する契約

1つ目が残っているのに金額が確定していない場合、差額の記録も確定していないということです。2つ目が年を越えて残っているときは、契約で決められた送金の期限を過ぎていないかを先に確認してください。3つ目は、生活用の口座を使った回数だけ増えます。増えるほど、どの入金がどの契約のものかを追う手間が増えます。

受け取る金額そのものの計算はファクタリングの受取額はいくらになる?に、差額に含まれうる費目はファクタリングで手数料以外にかかる費用にまとめています。差額を1行でまとめず、買取手数料、事務手数料、振込手数料、債権譲渡登記を行った場合の費用に分けて記録しておくと、翌年に条件を比べるときの材料になります。

消費税は、自分が課税事業者かどうかで作業が変わる

債権の譲渡そのものは、消費税では非課税となる取引の側に挙げられています。国税庁「No.6201 非課税となる取引」は、非課税となる取引の例として有価証券等の譲渡を挙げ、その中に「国債や株券などの有価証券、証券の発行がない国債、地方債、社債、株式等、合名会社などの社員の持分、抵当証券、金銭債権などの譲渡」を並べています。売掛債権は金銭債権にあたります。

ただし、この区分を帳簿で分ける作業が生じるかどうかは、自分の立場で変わります。国税庁「No.6501 納税義務の免除」は、「課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合には、原則として、納税義務が免除されます」としています。あわせて「特定期間における課税売上高が1,000万円を超える場合には、基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても、納税義務は免除されません」とも示されており、個人事業者の特定期間は前年の1月1日から6月30日までの期間です。

消費税での自分の立場 判定の基準として示されているもの ファクタリングの記帳で増える作業
免税事業者 基準期間の課税売上高が1,000万円以下(原則) 消費税の区分を分ける作業は生じません
課税事業者 基準期間、または特定期間の課税売上高が1,000万円超 債権の譲渡を非課税となる取引の側として区分して残します

課税事業者の場合、非課税売上として記録した金額は課税売上割合の計算に関係してきます。自分の売上から生じた売掛金を譲渡した場合の扱いには括弧書きの除外があるため、ファクタリングと課税売上割合で条文の並びから確認しています。差し引かれる手数料の側の扱いはファクタリングの手数料に消費税はかかる?にまとめています。

免税事業者であっても、譲渡と入金を帳簿に残す作業そのものは変わりません。消費税の区分を付ける手間が生じないだけです。

給与ファクタリングの記帳は、この記事の範囲ではない

検索すると、個人が使う資金調達として給与ファクタリングが並んで出てくることがあります。これは事業の売掛債権とは別のものです。金融庁は「業として、個人(労働者)が使用者に対して有する賃金債権を買い取って金銭を交付し、当該個人を通じて当該債権に係る資金の回収を行うことは、貸金業に該当します」と示しています。

当サイトは、給与ファクタリングなど個人向けの取引について利用を案内していません。記帳の方法も扱いません。扱うのは、事業で生じた売掛債権を譲渡した場合だけです。個人事業主として使う場合の公表条件は個人事業主のファクタリングの公表条件に、条件で絞った比較はファクタリング会社の比較に出典と確認日を添えて並べています。

確定申告まで持ち越す記録と、保存の期間

譲渡1件の記録を見るのは、記帳のときだけではありません。年末の残高の確認、申告書に添付する書類の作成、そのあとの保存と、同じ記録を3つの場面で使います。日付や請求書番号、額面、差額の内訳といった法人と共通の項目はファクタリングの仕訳の最後にまとめているので、ここでは個人事業主で追加になるものだけを挙げます。

  • 入金された口座が事業用か生活用か。生活用なら、その入出金明細のどの行に当たるか
  • 売掛先から回収した資金を、どの口座で受け取り、どの口座から送金したか(2社間の場合)
  • 年末時点で残っている残高と、それが解消する予定の日
  • 自分の記帳の方式(白色申告・青色申告の簡易な記帳・複式簿記)と、貸借対照表を添付するかどうか
  • 受け取った計算書・精算書の保存場所と、保存の起算になる年分

保存の期間は方式で分かれます。青色申告では帳簿と書類を原則7年、請求書・見積書・納品書・送り状などは5年、白色申告では収入金額や必要経費を記載した法定帳簿を7年、任意帳簿や請求書などを5年とされています。ファクタリング会社から受け取る計算書や精算書も、取引に関して受領した書類としてこの対象に含まれます。

ここまで見てきたのは、記録として何を残すかという範囲です。科目名の選び方、差額をどの区分に置くか、消費税の当てはめといった判断は、事業の内容や記帳の方式によって変わります。当サイトでは税務・法律の個別判断を行わないため、迷う部分は税理士へ確認してください。会計と税金に関するほかの論点は会計・税金のカテゴリにまとめています。

この記事の出典

手数料・条件・手続きは、下の一次情報で確認できた表記だけを載せています。 確認日以降に変更されている場合があるため、申込みの前に各社の公式ページで確かめてください。