「市民税の督促状が届いたのですが、ファクタリングは使えますか」。この問いに答えるには、滞納している相手を先に確かめる必要があります。国税と地方税では、同じ滞納でも進み方の速さと、止めるための手続の決め方が違うからです。
先に結論を書きます。滞納している税が国税か地方税かによって、ファクタリングの利用そのものを制限する公的なルールは見つかりませんでした。金融庁はファクタリングを「事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス(事業者の資金調達の一手段)であり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約です」と説明しています(2026年11月5日確認)。売買である以上、売主がどの税を滞納しているかで扱いを分ける規定は、少なくとも条文の側にありません。
分かれるのは、売る対象である売掛金が差し押さえられるまでの時間と、その手前で止める手続です。地方税では、督促状を発する期限が国税より30日短く、換価の猶予の申請期限は法律ではなく各団体の条例で決まります。この記事では地方税法の条文と3つの地方団体が公表している申請期限を確かめ、売掛金を売る前に数えるべき日付を決められるところまで整理します。滞納とファクタリングの関係そのものは税金を滞納しているとファクタリングは使えないのかで扱っているので、ここでは地方税に絞ります。
「税金の滞納」を1つにまとめない
地方税法は、横断的な1本の手続法ではありません。税目ごとに、督促の条文と滞納処分の条文を別に置いています。市町村民税の督促は第329条、その滞納処分は第331条で、固定資産税は第371条と第373条です。法人の道府県民税は第66条と第68条、事業税は第72条の66と第72条の68に分かれています(いずれも2026年11月5日にe-Gov法令検索で確認しました)。
| 滞納している徴収金 | 督促の条文 | 滞納処分の条文 | 督促状を発する期限 |
|---|---|---|---|
| 国税(消費税・法人税など) | 国税通則法第37条第1項 | 国税徴収法第47条第1項 | その国税の納期限から五十日以内に発するものとする(同条第2項) |
| 法人の道府県民税 | 地方税法第66条第1項 | 地方税法第68条第1項 | 納期限後二十日以内に、督促状を発しなければならない |
| 事業税 | 地方税法第72条の66第1項 | 地方税法第72条の68第1項 | 納期限後二十日以内に、督促状を発しなければならない |
| 市町村民税 | 地方税法第329条第1項 | 地方税法第331条第1項 | 納期限後二十日以内に、督促状を発しなければならない |
| 固定資産税 | 地方税法第371条第1項 | 地方税法第373条第1項 | 納期限後二十日以内に、督促状を発しなければならない |
条文が分かれているということは、手続も別に進むということです。市民税と事業税の両方を滞納していれば、督促も差押えも別の団体がそれぞれ行います。片方を納めても、もう片方の時計は止まりません。
相談する相手も分かれます。国税は所轄の税務署、道府県税は都道府県の県税事務所など、市町村税は市区町村の納税担当課です。「税金の相談」としてまとめて1か所に持ち込める形になっていません。どの団体へ、何を、いくら滞納しているのかを先に書き出すことが、最初の作業になります。
督促状を発する期限は、国税より30日短い
国税通則法は、督促状を「その国税の納期限から五十日以内に発するものとする」と定めています(第37条第2項)。これに対して地方税法は、市町村民税について「納期限後二十日以内に、督促状を発しなければならない」としています(第329条第1項)。固定資産税(第371条第1項)、法人の道府県民税(第66条第1項)、事業税(第72条の66第1項)も、同じ二十日以内です。
条文上の期限だけを見れば、地方税の督促は国税より30日早く届きうることになります。もちろんこれは期限であって、実際に発せられる日ではありません。ただ、「国税のときは納期限から1か月以上あったから今回も同じだろう」という見込みには、条文の側に根拠がありません。
差押えの要件の数え方は、国税と地方税で同じです。国税徴収法第47条第1項第1号は、滞納者が督促を受け「その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して十日を経過した日までに完納しないとき」に財産を差し押えなければならないと定めています。地方税法も、市町村民税(第331条第1項第1号)、固定資産税(第373条第1項第1号)、事業税(第72条の68第1項第1号)、法人の道府県民税(第68条第1項第1号)で、同じ「督促状を発した日から起算して十日を経過した日」という書き方をしています。
つまり、起点が早いぶんだけ全体が前倒しになります。手元にある督促状の発付日を見て、そこから10日を数える。これが、地方税の滞納で最初にできる計算です。
なお市町村民税については、特別の事情がある市町村は条例で第329条第1項に規定する期間と異なる期間を定めることができるとされています(同条第3項)。二十日という数字も、自分の市区町村で確かめる対象です。
差押えの手続は、地方税でも国税徴収法の例による
ここが、売掛金を売ろうとしている人にとっていちばん重要な接点です。地方税法は、滞納処分の細かい手続を自前で書き切っていません。市町村民税については「前各項に定めるものその他市町村民税に係る地方団体の徴収金の滞納処分については、国税徴収法に規定する滞納処分の例による」と定めています(第331条第6項)。固定資産税は第373条第7項、事業税は第72条の68第6項、法人の道府県民税は第68条第6項に、同じ定めがあります。
その国税徴収法は、債権の差押えについてこう定めています。差押えは「第三債務者に対する債権差押通知書の送達により行う」(第62条第1項)。徴収職員は債権を差し押えるとき「債務者に対しその履行を、滞納者に対し債権の取立その他の処分を禁じなければならない」(同条第2項)。そして差押えの効力は「債権差押通知書が第三債務者に送達された時に生ずる」(同条第3項)。
この第三債務者は、売掛先です。市区町村や都道府県による滞納処分であっても、売掛金の差押えは売掛先への通知によって効力が生じます。地方団体だから自社と役所の間で済む、という話ではありません。売掛先に知られない形で資金化したいという前提は、ここで崩れます。通知と方式の関係は売掛先への通知は必要か、2社間の仕組みは2社間ファクタリングとはで扱っています。
差し押さえられた債権を売れるのかという問いには、当サイトは答えを出しません。条文が「処分を禁じなければならない」と書いている状態で売買を進めてよいかどうかは、法律の個別判断にあたります。契約の前に弁護士へ確認してください。
換価の猶予の申請期限は、条例で決まる
差押えの手前で止める制度は、地方税にもあります。ただし申請期限の決め方が国税と違います。ここを国税の感覚で考えると、間に合うはずの申請を逃します。
国税徴収法第151条の2第1項は、申請による換価の猶予について、その国税の納期限から「六月以内にされたその者の申請に基づき」と、期限を法律の中に書いています。一方、地方税法第15条の6第1項は「当該地方団体の徴収金の納期限から当該地方団体の条例で定める期間内にされたその者の申請に基づき」としています。六月以内という数字は、地方税の条文には書かれていません。各団体の条例が決めます。
実際に違いました。当サイトが公表内容を確認できた3団体では、次のとおりです。
東京都主税局は、換価の猶予について「都税の納期限から3か月以内にご申請ください」と案内しています。さいたま市は「猶予を受けようとする市税等の納期限から6か月以内」、大阪市は「猶予を受けようとする市税の納期限から6か月以内に申請する必要があります」と案内しています(いずれも2026年11月5日確認)。
3団体のうち1団体が、国税より短い3か月でした。母数は3団体で、全国の自治体を網羅した調査ではありません。だからこそ、国税の6か月を自分の自治体に当てはめないでください。確かめるのは、自分が滞納している団体の案内です。
要件の側も確かめます。地方税法第15条の6第1項が挙げているのは、徴収金を一時に納付し、又は納入することにより「その事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがある」と認められること、そして納付又は納入について「誠実な意思を有すると認められるとき」です。同条第2項は、申請に係る徴収金以外に滞納がある場合など、条例で定める場合には適用しないことができるとしています。ほかの滞納を残したままでは、この制度を使えないことがあります。これも、滞納先を分けて数えておく理由のひとつです。
災害や盗難、病気、事業の廃止や休止、事業について著しい損失を受けたといった事実があるときは、徴収の猶予(地方税法第15条第1項)という別の入口もあります。猶予の期間はいずれも一年以内で、やむを得ない理由があると認められるときは延長される場合がありますが、既に猶予をした期間と合わせて二年を超えることはできないとされています(同条第4項)。
売掛金を売る前に、3つの日付を数える
ここまでを作業に落とします。資金の手当てを探す前に、手元の書面から3つの日付を拾ってください。
| 数える日付 | どこを見るか | 何が決まるか |
|---|---|---|
| 納期限 | 納税通知書・督促状 | 換価の猶予の申請期限の起点。地方税は条例で定める期間内(地方税法第15条の6第1項) |
| 督促状を発した日 | 届いた督促状 | この日から起算して十日を経過した日が、差押えの要件を満たす日(地方税法第331条第1項第1号など) |
| 自分の団体の申請期限 | その団体が公表している案内 | 3か月なのか6か月なのか。確認できた3団体でも分かれていました |
そのうえで順番を決めます。猶予の相談を先に置いてください。猶予が認められれば滞納処分による財産の換価が猶予され、売ろうとしている売掛金を守ることにもつながります。資金化の検討はそのあとです。赤字が続いている状況での考え方は赤字でもファクタリングは使えるか、審査の過程で滞納がどう伝わるかはファクタリングの審査で税金の滞納は分かるのかにまとめています。
申込みの場で「地方税の滞納があっても可」と言われたとしても、その言葉は契約の中身を何も説明していません。確かめるのは、売掛先が支払わなかったときの損を最後に誰が負う設計になっているかです。各社が公表している条件はファクタリング会社の比較に、表記のまま並べています。
確かめる順番
整理します。地方税を滞納していることを理由にファクタリングを使えないとする公的なルールは、確認できませんでした。一方で、地方税には国税と違う期限が2つあります。
督促状を発する期限が納期限後二十日以内で、国税の五十日以内より30日短いこと。そして換価の猶予の申請期限が、法律ではなく各団体の条例で決まることです。3団体を確かめた範囲でも、3か月と6か月に分かれていました。
差押えの手続そのものは、地方税でも国税徴収法に規定する滞納処分の例によります。売掛金の差押えは、売掛先への債権差押通知書の送達によって効力が生じます。売る対象が残っているかどうかが分かれ目で、その通知は売掛先に届きます。
だから順番は、滞納先を団体ごとに分けて数える、督促状の発付日から十日を数える、自分の団体の申請期限を確かめる、猶予を相談する、の順です。資金化の検討はそのあとに置いてください。
ほかの状況別の論点は利用条件・ケース別から辿れます。猶予の申請や個別の滞納の扱いは滞納している団体の窓口へ、差し押さえられた債権の扱いや契約条項の意味は弁護士へ、税務上の扱いは税理士へご確認ください。
この記事の出典
手数料・条件・手続きは、下の一次情報で確認できた表記だけを載せています。 確認日以降に変更されている場合があるため、申込みの前に各社の公式ページで確かめてください。
- e-Gov法令検索「地方税法」 公的機関 / 確認日 2026年11月5日
- e-Gov法令検索「国税徴収法」 公的機関 / 確認日 2026年11月5日
- e-Gov法令検索「国税通則法」 公的機関 / 確認日 2026年11月5日
- 東京都主税局「納税が困難な方に対する猶予制度について」 公的機関 / 確認日 2026年11月5日
- さいたま市「市税等を一時に納付できない方のために~市税等の猶予制度について~」 公的機関 / 確認日 2026年11月5日
- 大阪市「申請による換価の猶予を受けるための手続等」 公的機関 / 確認日 2026年11月5日
- 金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」 金融庁 / 確認日 2026年11月5日