ファクタリングを使っても、流動比率はほとんど動きません。売掛金と現金及び預金は、どちらも流動比率の分子に入る流動資産だからです。動くのは、差し引かれた手数料の分だけです。
向きが変わるのは、譲渡そのものではなく、受け取った資金を何に充てたかによってです。短期借入金の返済に充てると分母も減るため、元の流動比率が100%を超えている会社では上がり、100%を下回っている会社では下がります。同じ取引で、結果が逆になります。
この記事では、流動比率の分子と分母に何が入るのかを公的な定義で確認し、仮定の数値で譲渡の前後を計算したうえで、資金の使い道による3つの分岐を並べます。どの科目が動くのかという全体の整理と自己資本比率の計算例は、ファクタリングと貸借対照表で扱っています。自社の取引をどう処理するかという会計・税務の個別判断は、当サイトでは行いません。
流動比率は、何を分子と分母にしているのか
財務省 財務総合政策研究所は、法人企業統計で使う財務営業比率の算式を公表しています。流動比率は「流動資産 ÷ 流動負債 × 100」です。短期に支払わなければならない負債に対して、短期に資金化できる資産がどれだけあるかを見る割合です。
分子と分母に何が入るのかは、政府統計の総合窓口(e-Stat)が定義単位項目として示しています。流動資産は「資金化予定が決算日の翌日から1年以内、又は正常営業循環基準内の資産の額」とされ、その中に現金及び預金と売掛金の両方が並んでいます。流動負債は「返済義務が決算日の翌日から1年以内、又は正常営業循環基準内の負債の額」です。
ここが出発点になります。売掛金も現金及び預金も、同じ分子の中にあります。
公的な定義に並んでいる項目を、そのまま書き出すと次のとおりです。どちらにも「1年以内、又は正常営業循環基準内」という期間の条件が付いています。
| 区分 | 定義にある項目(抜粋) |
|---|---|
| 流動資産(分子) | 現金及び預金、受取手形、売掛金、有価証券、商品、製品、半製品、原材料、仕掛品、貯蔵品、前渡金、前払費用、繰延税金資産など。資金化予定が決算日の翌日から1年以内、又は正常営業循環基準内の資産の額 |
| 流動負債(分母) | 支払手形、買掛金、短期借入金、未払金、未払費用、未払法人税等、繰延税金負債、前受金、預り金、前受収益、賞与引当金など。返済義務が決算日の翌日から1年以内、又は正常営業循環基準内の負債の額 |
売掛金が現金及び預金に変わっても、分子の中での入れ替えにすぎない
売掛債権を譲渡すると、売掛金が減って現金及び預金が増えます。どちらも流動資産なので、分子の合計はほとんど変わりません。変わるのは、差し引かれた手数料の分だけです。
仮に、流動資産1,200万円(現金及び預金200万円、売掛金400万円、棚卸資産500万円、その他の流動資産100万円)、流動負債1,000万円の会社を考えます。流動比率は120.0%です。この会社が売掛金400万円を手数料20万円で譲渡し、380万円を受け取って現金及び預金のまま持った場合、流動資産は1,180万円になります。流動負債は動きません。流動比率は118.0%です。
下がり幅の2.0ポイントは、簡単な式で確かめられます。分母が変わらないので、下がり幅は手数料を流動負債で割った値になります。20万円 ÷ 1,000万円 で2.0ポイントです。手数料が大きいほど、また流動負債が小さいほど、下がり幅は大きくなります。
向きが変わるのは、受け取った資金の使い道
譲渡そのものでは、流動比率は手数料の分だけ下がります。向きが変わるのは、受け取った380万円を何に充てたときです。
短期借入金の返済に充てると、流動資産が380万円減る一方で、流動負債も380万円減ります。分子と分母の両方が小さくなるため、割合そのものが動きます。先の会社では、流動資産800万円・流動負債620万円となり、流動比率は129.0%になります。上がります。
長期借入金の返済に充てた場合は違います。長期借入金は固定負債なので、流動負債は1,000万円のままです。分子だけが380万円減るため、流動比率は80.0%まで落ちます。資金を手元に残したか、短期の負債を消したか、長期の負債を消したかで、118.0%・129.0%・80.0%に分かれます。
元の流動比率が100%を下回っていると、結果が逆になる
短期借入金の返済で流動比率が上がったのは、この会社の元の流動比率が100%を超えていたからです。分子と分母から同じ額を引くと、割合は100%から遠ざかる方向へ動きます。もともと分子のほうが大きければ比率は上がり、分母のほうが大きければ下がります。ちょうど100%なら変わりません。
流動比率が80.0%の会社で確かめます。流動資産800万円、流動負債1,000万円とします。売掛金400万円を手数料20万円で譲渡すると、流動資産は780万円になり、流動比率は78.0%です。ここで短期借入金380万円を返済すると、流動資産400万円・流動負債620万円となり、流動比率は64.5%まで下がります。
短期の支払いに余裕がないからファクタリングを検討している、という状況のほうが多いはずです。その状況では、受取額を短期の負債の返済に充てても、流動比率という指標の上では良くなりません。指標が上がるのは、もともと指標に余裕がある会社のほうです。流動比率を上げることを目的に取引を選ぶと、想定と反対の結果になりえます。
同じ安全性の指標でも、自己資本比率とは動き方が違う
流動比率と自己資本比率は、どちらも安全性の指標として並べられることがありますが、分子に入るものが違います。流動比率の分子は流動資産で、売掛金と現金及び預金はその中にあります。自己資本比率の分子は自己資本です。財務省の算式では「自己資本 ÷ 総資産 × 100」とされています。
売掛金から現金及び預金への振り替えは、流動比率の分子の中では打ち消し合いますが、自己資本には関係しません。自己資本に効くのは手数料の分だけです。総資産が縮んだときに自己資本比率がどう動くかは、ファクタリングと貸借対照表で仮定の数値を置いて計算しています。
| 指標 | 分子 | 分母 | 売掛金から現金及び預金への振り替えで分子は動くか | 受取額で流動負債を返済したときの向き |
|---|---|---|---|---|
| 流動比率 | 流動資産 | 流動負債 | 動かない。どちらも流動資産のため、手数料の分だけ減る | 元の比率が100%超なら上がり、100%未満なら下がる |
| 当座比率 | 当座資産 | 流動負債 | - (当座資産に何が含まれるかを当サイトでは一次情報で確認できていません) | - |
| 自己資本比率 | 自己資本 | 総資産 | 分子は自己資本。振り替えでは動かず、手数料の分だけ減る | 分母の総資産が縮むため、上がる場合がある |
当座比率については、財務省の算式は「当座資産 ÷ 流動負債 × 100」としています。ただし、当座資産に何が含まれるかを当サイトでは一次情報で確認できていないため、この記事では数値を当てはめません。財務省 財務総合政策研究所は、流動比率と当座比率のそれぞれについて業種別・資本金別の資料を公表しているので、自社の業種と照らすときはそちらを確認してください。
この計算が当てはまらない場合
ここまでの計算は、譲渡した売掛金を貸借対照表から外せることを前提にしています。企業会計基準委員会の企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」は、金融資産の消滅を認識できる場合を定めており、買戻しの権利や義務が実質的に残っている契約はその要件を満たしません。要件を満たさない場合、売掛金は資産の部に残ります。分子の中で入れ替わるという前提そのものが成り立たないため、この記事の数値は当てはまりません。要件の中身と契約書のどこを読むかは、ファクタリングと貸借対照表で条文から整理しています。
金融庁は、ファクタリングを事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービスであり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約であると説明しています。あわせて、売主が債権を買い戻すこととされている場合や、売主自身の資金によりファクタリング業者に支払をしなければならないこととされている場合は、貸金業に該当するおそれがあるとしています。
実質が貸付にあたる取引なら、貸借対照表には負債が増えます。流動比率の分母が増えるので、この記事の計算とは逆向きの話になります。どの処理にあたるのかという判断は会計・税務の領域なので、契約書を持って税理士・会計士へ確認してください。
決算日をまたがない取引は、手数料の分だけが残る
流動比率は、決算日の貸借対照表から計算します。期中にファクタリングを使い、売掛先からの入金予定日も決算日より前に来る取引では、決算日の貸借対照表に売掛金の減少は残りません。その日までに回収されていたはずの売掛金だからです。
残るのは、差し引かれた手数料の分だけです。つまり、決算日をまたがない取引は、決算日の流動比率をわずかに下げる方向にだけ働きます。年に何度も繰り返せば、その回数分の手数料が積み上がります。
決算日をまたぐ売掛金を譲渡した場合は、この記事の計算が当てはまります。どちらになるかは、売掛金の支払期日と決算日の前後関係で決まります。自社の数字で確かめるときは、まずそこを見てください。
自社の数字で検算する手順
指標の定義と算式が公表されているので、自社の数字で確かめられます。次の順で計算してください。
- 直近の決算書から流動資産の合計と流動負債の合計を書き出し、流動比率を計算する。100%より上か下かを確認する
- 譲渡を検討している売掛金の額面と、見積書に書かれている差引額の合計を書き出す。手数料のほかに、事務手数料、振込手数料、債権譲渡登記を行う場合の費用が含まれるかを確認する
- 差引額の合計を流動負債の合計で割る。これが、受取額を手元に置いた場合の下がり幅(ポイント)になる
- 受取額を短期の負債の返済に充てる予定があるなら、流動資産と流動負債の両方から同じ額を引いて計算し直す。1で確認した水準によって、上がるか下がるかが決まる
見積書の差引額が確定していない段階では、3と4は仮の数字にしかなりません。差し引かれる項目として各社が公表している範囲はファクタリング会社の比較に出典と確認日つきで並べています。額面からいくら手元に残るのかという計算そのものはファクタリングの受取額で扱っています。
比率ではなく、資金繰りが続くかどうかを見る
流動比率は、決算日という1日の断面です。前倒しで資金化するということは、通常の入金日に入るはずだった資金を先に受け取るということなので、その入金日には資金が入りません。断面の比率を整えても、翌月以降の見通しは別に作る必要があります。
同じ債権を毎月前倒しし続ける形になっていないかは、月ごとの入金と支出を並べた表で確かめられます。作り方は資金繰り表の作り方で扱っています。損益計算書とキャッシュ・フロー計算書のどこに何が出るのかはファクタリングは損益計算書のどこに出る?で条文から整理しています。会計と税金のほかの論点は会計・税金のカテゴリにまとめています。
この記事の出典
手数料・条件・手続きは、下の一次情報で確認できた表記だけを載せています。 確認日以降に変更されている場合があるため、申込みの前に各社の公式ページで確かめてください。
- 財務省 財務総合政策研究所「法人企業統計における財務営業比率の算式」 公的機関 / 確認日 2026年10月28日
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)定義単位項目「流動資産の資産額」 統計 / 確認日 2026年10月28日
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)定義単位項目「流動負債」 統計 / 確認日 2026年10月28日
- 金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」 金融庁 / 確認日 2026年10月28日
- 企業会計基準委員会「企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準」 業界団体 / 確認日 2026年10月28日
- 財務省 財務総合政策研究所「法人企業統計からみえる企業の財務指標」 公的機関 / 確認日 2026年10月28日